第5話 白獅子は如何にして料理の味を覚えたか
僕らは主に作られた存在だ。
主が内なる力と外界に揺蕩う
主は僕らを見ても驚かずに「まあ、そう言うこともあるか」って。
僕たちは主に驚いて欲しくて練習の際に力の解放をしたり、周辺の力を取り込んで見せたりしたけど、主はそれが当然だと思ってしまったらしくて思いっきり普通の反応だった。
そこまでは良いんだけど、いや良くないけど。
この主、無茶苦茶だった。
自殺行為に等しい力の限界突破と力の体内循環。そして体内高速循環による強化を行って僕たちの力を引き上げた。
この世界にある隠れた理。
天の理と地の理。それを繋げる生の道。
主はその循環する理を当たり前のように循環し、取り込んでいる。
人の器はそんなに大きくないはずなのに、僕らを内部にしまい込んでも問題無い。
まるで未だ制作途中の器のように、広がり、補強されていく。
元から広い器が大盃となり、貯蔵庫となり、ダムになっている。
僕らは外界に揺蕩っていた。
この世界のこともある程度は見ていた。
人の領域の到達点に達した人も数人見た。
今現在、主はその領域に近い。器は既にその領域を軽く越えている。
殴って人殻概念を破るとかこの世界の物理は仕事を放棄していると思う。
僕らが物理概念だったら───うん。同じように例外措置する。ごめんなさい。
そんな主だけど、大切な家族が居る。
いつも凄く良い匂いのする人?と、主に似た雰囲気の人だ。
ただ、凄いのがこの良い匂いのする人?の作る料理だ。
僕らは元は外を漂う精霊で食事なんて要らない。この世界で形を作ってからは食事と言えるモノは供給される『気』や自然に漂う『思念』だ。
『気』を喰らえばカタチが補強される。
『思念』を喰らえば存在力が増して世界からの侵食を防げる。
そう。何が凄いって、この良い匂いのする人?の作る食べ物は『純度の高い良い思念』が籠もっている。
例えゼロから作っていなくても、この人?の手を介した場合、あっという間に思念が籠もる。
あり得ない。
でも納得した。
きっとこれを常時食べているから主はこんなに強いんだ。
僕たちも食べてみたい。
主の特訓の時におねだりしてみよう!
僕たちはそう話し合った翌日、すぐに機会がやってきた。
主が僕たちを外に出した。
僕たちは主にあの人?が作った物を食べさせて欲しいとお願いした。
───うん。言葉なんて通じないからかなり時間が掛かったけど、何とか通じた。
主は「しょうがないな」といって箱を取り出してそこから一つずつ食べ物を取り出した。
僕たちはそれを一口で食べて…放心した。
この姿は主のイメージとの擦り合わせで作成されたハリボテのガワだけど、食べた瞬間に甘い香りがした。そして色々な味を一気に知覚し、優しい思念が後から押し寄せてきた。
分かる。分かるよ。
主の友達?が美味しいものを食べて身悶えしている姿を見た時「いやそうはならないでしょ」と思ってご免なさい。
これはそうなる。
美味しいってこういう事なんだ。
甘いってこうなんだ。
香りって凄いんだね。
僕たちは学習した。経験した。
揺蕩っている間はただ見ているだけ。
ただ感じているだけ。
でも、これは凄い。
その瞬間に僕たちは完成した。
ハリボテじゃなくなった。
地面を踏む感覚も、主の匂いも、全て自分で感じる。
存在が定着した。
僕たちはもっと欲しいってねだったらもう一つずつくれた。
それ以上はダメらしい。
僕たちは知ってるよ?
何か主の役に立ったらご褒美としてくれるんだよね?
僕たち、頑張るからね!
あ、そうだ。揺蕩っている仲間にも伝えよう。
絶対に他では分からない事だから!
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