軟弱
「ドーレンを背負うという自覚が足りないのですわ、きっと。
キャンキャンとけたたましく子犬に喚かれているようでさすがに流せなくなってきた。となると猛烈に独りになりたくなるのだ。
ハオインがいれば愚痴を言えるのだが、あいにく男は後宮に入れない。
「あたくしだって、好きで故郷を後にするのじゃありません。でも国の為に役立つなら光栄ですわ。矜恃を堅く持って野蛮なアニロン人を従え、ドーレンの威光を自らで示すのです。それに抜擢されたのは誇るべきことです。公主はその筆頭なのですよ?分かっておいでです?」
「うん、ごめんねシャオニ。分かったから……」
「どうせ口うるさい小姑だと思ってらして?公主はぜんぜんキビキビお動きになりませんし、へらへら笑うばかりで気持ち悪いですのよ。あと猫背!」
「うーん」
傷つくなあ、と内心うんざりした。内心だ。祖母には何事にも動じないと評されたがそれは違うのだ。素直な――とくに負の感情を上手く表面に出せない。昔からだ。仲良くない相手ならなおさらそう。いつも心のどこかで怯えている臆病な自分が直情を抑えてしまう。
(でも受けて立つのも面倒くさいなあ……)
そういえばこういう時は決まって、面倒くさがりはたいがいに、とハオインに叱られたものだ。
「……シャオニ、その、ひとつ教えて欲しいんだけど」
「はい?」
イライラした雰囲気に実は怖じけつつ、平気な顔をして問う。
「誇りとか矜恃とかって、どうやったらそう思えるの?」
公主として降嫁するにあたり、そういう気概が大切なのは分かる。しかし、いまいちそれがメイファには無い。シャオニは面食らったようで手を止め、大きな瞳をパチパチと忙しなく瞬かせていたが、再び口を開いた。
「……公主の好きなものはなんですの?」
「好きなもの……ひとでもいい?お祖母さま、かな」
「なぜ好きなんですの?」
「うーんと……仕事ができて元気なひとで、みんなに優しくて、あ、たまにすごく怖いんだけど。でもきちんとしてて」
「そのお祖母さまが馬鹿にされたり
「それは、……嫌だけど、理由を聞かないとすぐには判断できないかな」
「ではお祖母さまを褒められたら、どうです?」
「嬉しいよ。やっぱりお祖母さまはすごいなあってなる」
「そういう気持ちですわ」
シャオニは針を動かす手を再開させた。「好きなもの、大切な人、それらをコケにされたら怒りが沸きますし、賞賛されれば我が事のように心が満たされる。もしアニロン人からドーレンのことをとやかく言われたりしたら、あたくしだったら
「そ、そっかあ……」
メイファとしては国と個人は必ずしも同義でないから、そこまで怒れない。
「ご理解いただけまして?」
「なんとなく」
先が思いやられる、と首を振られ、クセでまたへらりと笑いそうになった。しかし可憐な少女の背後、奇妙な恰好の人影をみとめた。
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