第10話 ジイジなの?

 サリーはいつも、さみしげな眼をして、ゲージの最上階で過ごした。

 三つ子たちのゲージと違い、サリーのゲージは一人だ。

 サリーはいつも「ジイジ撫で撫でしてぇ」と、心で祈った。

 そんな夜はいつも、ジイジが夢に出てきて、愛しげに撫でてくれた。


 レースのカーテン越しに、知らない車が、家の駐車場に停まるのが見えた。

 この部屋に、来てくれないかな?

 出会う人が増えれば、いつか九十九人になって、そして百人目で、新しいジイジに出会える。

 しかし、そのカウントに達するのは、まだ何年も先のことだ……

 管理人さんが玄関で出迎え、来客の足音が、この部屋に向かってきた。


「サリーちゃん、今日はサリーちゃんにお客様よ」

 管理人さんは、そう言って、サリーのゲージのドアを開けた。

 サリーを見に来る客は稀だ。サリーは警戒して、思わず毛布にクルンと包まれ、筒っぽになった毛布の奥から、来客を覗いた。

 来客は六十代の男女だった。

「まぁサリーちゃん、それじゃお客様に、サリーちゃんが見えないでしょ!

今、毛布を剥がしますから」

 管理人さんはそう言ったが、女性客のほうが止めた。

「いえいえ良いんです。そのままにしてあげてください」

 女性客がそう言うと、その手が毛布の上から、サリーを撫でた。

 それはとても、懐かしい撫で撫でだった。

 サリーは毛布の上からではなく、直接撫で撫でして欲しいと思ったが、まだ警戒感のほうが強くて、毛布から出ることができなかった。

 どんな人だろう?もっと見たいと思い、毛布の奥から覗くと、目と目があった。

 男性客が、覗き込んでいたのだ。


 ジイジとは、顔も匂いも違う。しかしとても、懐かしく思えた。

 ニコニコと微笑んで、瞳の奥に、何か懐かしい光が輝いていた。

「瞳って透明なガラス玉なの?その奥に輝いて見えているのは何?温かい心が、透けて見えているの?」

 ジイジと同じ瞳だった。

 サリーは思わず呟いた。

「ニィニィ(ジイジなの?)」


 サリーは気づいていなかった。

 優しい人間は、百人に一人ではない。

 ジイジだけではなく、サンマのお婆さん、発泡スチロールの魚屋さん、駐車場で助けてくれた女性。

 サリーはたくさんの、優しい人に出会っていたのだ。

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