第8話
「生きるのってつらいなあ......」
「さすがに余も心が折れかけたわ...... 人間世界はせちがらすぎる」
俺たちはなんとか壊れかけた心をたて直し、ギルドの仕事を受けてその場所に向かっていた。
「まあ余も少し魔法を使えるようになったからの! これで依頼がはかどるというもの! リトルデーモンの討伐だ!」
「リトルデーモンってなんなんだ?」
「下級の悪魔だ...... 魔法を得意とするな」
そう腕を組んでディンが話す。
(悪魔...... しかも魔法を使うのか)
ディンがかってに受けたのだった。
「本当に大丈夫かよ。 悪魔ってお前たちと同じ種族か?」
「違う。 余たち魔族とは異なり、ここの世界に要る種族ではなく、お主のような異界の種族だ。 主に狡猾で邪悪なものたちがおおい」
「ふーん、じゃあ魔族ってなんだ?」
「魔族は亜人の総称だ。 人間は亜人種族を魔族と定義しておる。 元々は人間のつけた
真剣な顔でそういうディンの横顔を見る。
(亜人...... 普通の人間にみえるけどな。 まあ、よくそれで人間の俺といられるな、こいつ......)
かなりの距離を歩き、山にある大きな正方形の石造りの遺跡まできた。
「ここがデーモンのいるトラジア遺跡か......」
「ああ、そのようだな。 いくぞ」
中はカビ臭いがするが、比較的きれいで一本の通路がつづいて左右に部屋がある。
「ここはできて千年前ぐらいなのか?」
「いや、千年どころどはないな。 もっとふるい遺跡だ。 人間の作ったものか、それとも魔族が作ったものかも定かではないな」
いくつかの部屋をのぞいてそういった。
「なにもないぞ」
ディンがつまらなそうにいう。
「まあ、盗掘か調査でもされたんだろうな。 部屋の間取りから住居ではなさそうだな...... みても無駄か」
取りあえずリトルデーモンがいるという、十階まですすむことにした。
「なにかくるぞ! 魔力の反応だ」
通路の奥から両腕を拡げたぐらいの大きさのトンボが飛んできた。
「フェアネスソウル!」
「ファイアドラゴンフライだ! やつは火炎の魔法を使う!」
「......ファイアブリッド」
そうモンスターがつぶやく、何発かの炎の弾がこちらにうちだされる。 なんとかかわした。
「うおっ! この魔法、俺も使えるのか!」
「使えるぞ」
「ならファイアブリッド!」
手のひらから炎の弾が何発も放たれる。 ドラゴンフライはかわした。
「当たっても効果は薄い! 剣で攻撃しろ!」
「くっ! しょうがない!」
剣をふるいモンスターの翼を切り裂き、落ちたモンスターをつきさし倒した。
「ふぅ、倒せた。 この剣のおかげだ。 これでファイアブリッドも使えるな」
「いや無理だな」
「なんでだ?」
「もう一度使ってみよ」
「ああ......」
魔法を使おうとすると、頭に大量の文字列が浮かんだ。
「......なんだこれは? 魔法が使えない?」
「そうだ。 魔法の発動は三種あるのだ。 ひとつは無詠唱、何も唱えずに発動する。 二つ目は短縮詠唱、名前や短い紋様だけで発動する。 最後は詠唱、長い文字を正確に詠唱、紋様を描くことで発動する」
「つまり、俺のみたあのバカ長い文字は、詠唱なのか」
「そう、お主が無詠唱や短縮詠唱を使えるのは相手に、フェアネスソウルの魔法がきいているときだけだ。 いま頭に浮かぶのは、一度使ったから得た情報なのだろう。 本来魔法を覚えるにはかなりの時間と労力がいる」
「ということは、無詠唱か、短縮詠唱しかないのか」
「そうだ。 がその二つは巨大な魔力で圧縮したものだから、その圧縮した魔法を得なくてはならん。 お主に与えたフェアネスソウルは余はもうつかえんだろう。 また覚えねばならん」
「つまり、無詠唱や短縮詠唱はだれかが圧縮したものをもらうか、自分で圧縮するか、覚えるかしか得られない...... か」
「そういうことだ」
「やはり魔法、そう簡単には覚えられんな。 あんなバカ長い文字列を正確に覚えて唱えるなんて無理だ。 ほかにはないのか無詠唱か短縮詠唱を知る方法」
「古文書や遺物に圧縮されている魔法もあるな。 余の魔法はほぼそれだったからな」
(なるほど、それなら魔法を得られるのか、このポンコがそんな複雑なもん覚えられるわけないもんな)
「なんだ!? よからぬこと考えているのではなかろうな!!」
ぎゃあぎゃあさわぐディンをあしらいながら先に進んだ。
「やっとついた...... あと
「一個だ。 ここで休憩してその薬で回復せよ。 その体力ではリトルデーモンとは戦えぬ」
「だな」
安全な部屋を見つけ、そこで休憩をとる。 ディンがキノコ鍋を作った。
「これは毒キノコは大丈夫だろうな......」
「心配はない! ちゃんと一個ずつ毒味をしておる! あのときは目覚めたばかりで、ころりと忘れておっただけだ!」
「まじで、コロリといきそうだったからな......」
腹が減っていたので恐る恐る口に運ぶ。
「うまい!」
「よし! ならば余も食べよう!」
「このやろう! 毒味させやがったな!」
「そんなことより、リトルデーモンのことだ。 やつはかなり下位の悪魔だが強い魔法を使う。 どうだ願いを叶えてやるから魔法を覚えたらどうだ?」
「それならただで教えろよ!」
ディンはスープをよそいながら首をふった。
「それはできぬのだ。 そもそも他者への魔法の譲渡は簡単ではない。 余は【契約】の魔法でお主と契約し、その結果譲渡を可能としておる」
「つまりお前はあの願いで魔法を与えるしかないのか」
「そうだ。 もちろん文字列として魔法を教えることはできるが、サキミに覚えられるのか?」
「いや、覚えたとしても唱える前に死ぬな」
「であろう。 圧縮も魔力で行うため、今の余では魔力が足りん。 余とて死にたくはないゆえ、お主が魔法を覚えてくれるほうがよいのだがな」
(だが、願いは残しておきたい。 なにがおこるかわからんし、もとの世界に戻るにはひとつは必要だ。 それに、これからディンの魔力が増えれば叶うことも増えるだようからな)
「まあ取りあえず、リトルデーモンを倒そうぜ」
「そうだな。 最悪余の魔法ならば仕留められようて」
休憩をすませ奥へと向かう。
「奥にかなり大きな魔力を感じる......」
ディンはそう緊張気味でいう、俺は剣を抜き進んだ。 かなり広い場所にでる。
「なにかいる......」
奥にはうずくまった人型のなにかがみえ、それは立ち上がると、おおきなコウモリのような翼を拡げた。
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