第6話

「ルールールルルー......」


 鼻唄を歌う。 夕日の明かりがカーテンから部屋に入ってくる。 それが物悲しさを奏でている。


「帰ったぞサキミ!!」


 その時、ドアをいきおいよく開けて、ディンが入ってきた。


「金か...... 結局、金か...... 異世界でも金だ...... しょせんこの世は金......」


「やめよ! 湿っぽい! いったときのまま三角座りではないか!」


「......やる気がでた途端、やっぱりこんな感じだ。 いつもどこでも強いやつが弱いものから搾取する......」


 絶望の縁に俺はいた。


「ええい! しつこいわ! 金がないならまた稼げばよかろう! 生きてさえいればどうとでもなる!」


 そういうとディンは台所にむかった。


「なにしてんだ?」


「台所ですることは決まっておろう。 さっき森でキノコや山菜を見つけてきた。 モンスターがでてきて逃げま...... まあテーブルをおいてまっておれ」


(魔王が料理なんてできんのかよ)


「そもそもガスは使えんぞ。 この世界は作ってないっぽいからな」

 

「小さな火なら余の今の魔力でも使える。 何せこの世界には魔力が満ちておるからな」


 そうやって火をつけて、ディンはなにげに手際よく料理を作っている。


「なんかいい匂いしてきた......」



「よしできたぞ!」


 部屋の中央の丸テーブルに鍋を持ってきた。


「さあ、食うがよい!!」


 自信満々に鍋をおいた。 とてもいい匂いがする。 ただキノコや山菜がはいっているが、汁の色が青色だ。


「......最初に聞くが、これはくえるのか。 お前は消化できるかもしれんが、人間は毒で死ぬぞ......」


「当たり前だ! 魔王も毒で死ぬわ! 文句は一口食ってからいえ!」


 恐る恐る汁をスプーンですする。


「う、うまい!! マジで上手い!」


「だろう! ふふん、余は万能の天才だからな」


 そうディンは上機嫌で器用にはしをつかっている。


「意外だな。 魔王なのに料理ができるなんて...... あっ、そうか、すまん......」


 謝って同情するような目でディンをみた。


「違う! やめよ! そのあわれみの目は! 余は魔王だ! いつわってはおらん! 魔王になる前は料理もしていたのだ! 夢は食堂をもつことだったのだからな!」


(魔王なのに夢が食堂って......)


「魔王って継承したんじゃないのか」


「いいや、強い魔力を持つものを魔王と呼ぶ。 余とて魔王になりたかったわけではない......」


 ディンはなにかを思い出しているように言葉少なにいった。


(なんだ?)


「......まあそんなことはどうでもよい。 明日から働かねばならん」


「確かにな。 やるしかないか...... まあ魔法もつかえるようになったしやるか!」


 腹が膨れてくると、やる気がでてきた。


「その意気よ! 食べて働かねばな!」


 そして俺たちは一週間寝込んだ。 キノコの中に毒キノコが混ざっていたとあとでわかった。  


 その間様子をみにきていたネメイオに世話になる。



「なんとか動けるようになったな......」


「ああ、危なかった...... 死にかけた......」


 俺たちはふらふらしながらギルドにむかった。


「だ、大丈夫ですか!? 二人とも!」


 アラミアさんが心配している。


「......ええ、なんとか。 それで何か高額な依頼ありますか?」


「そうですね...... 鉱山のモンスター討伐がありますね」 


 書類の束をみながらアラミアさんがそういった。


「ですが、これは一年も受けるものがいないものです。 坑道内にストーンゴーレムがいて閉山になっているのです」


「ゴーレムってゲームとかの?」


「そうだ岩の人形だ。 よしそれを受けよう!」


「いいのかよ」


「こういう脳筋系には、お主の魔法はめっぽう強い!」


「確かにな...... よし受けよう!」


 その依頼を受け、残りの残金で装備やアイテムをかった。


「これ剣か、金属なのに軽いな。 普通の木の棒ぐらいだ」


「魔法で軽くしてあるのだろう。 ここに魔晶がある。 これに魔法が入っておる」


 剣の柄に小さな宝石がついていた。


「これが魔晶か...... これお前が探してるんじゃないの?」


「こんな小さなものは足しにもならん」


 そしてゴーレムのいるという鉱山へと向かった。

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