第3話
森につく、なんの変哲もない森だ。 アパートで引きこもり生活していたせいか、森の空気がひどく美味しく感じる。
「モンスターを倒してこの冒険者カードをかざせば、魔力を感知して確認できるんだってよ」
俺は銀色に光るカードを眺める。
「そんなに進歩しておったのだな、魔法のかけられたアイテムか...... 昔なら貴族ぐらいしかもてなんだのに、
そう感激しているようだ。
「本当にモンスターなんて俺たちでやれんのかよ」
「まあファングラットは弱いモンスターだからな。 こんな木の枝でも倒せる」
拾った太めの枝をふりながら答えた。
「それにお主ならば...... まあいまはまだよいか」
「本当かよ......」
俺も木の枝を拾う。
「それでモンスターはどこにいるんだ? やはりエサかなんかでつるべきなのか」
「モンスターは大抵攻撃的だ。 ここにいれば魔力を感じて近づいてくるものもいる。 まあ余が魔力を感知してやろう」
ディンプルディが目を閉じている。
「ふむ、何か魔力が近づいてくる...... これは少し大きい......」
茂みがガサガサと揺れると、人間の子どもなみの大きさの、刃物のような鋭い牙が生えたウサギが現れた。
「お、おい、こんな大きいのかよ...... これ木の枝で倒せるんだよな。 なっ」
「ん、んん、あれ? こんな大きかったかな?」
ディンプルディがすごい量の汗をかき始めた。
「おい! 話が......」
ラットは跳躍すると、ドンと地面におり、俺たちを追いかけてくる。
「うわああおああ!!」
「きゃあああああ!!」
俺たちは一目散に逃げ出した。
「ヤバイヤバイ! あんなの戦えるわけないだろうが!!」
「なぜだ!! あんな大きさのものなどみたことはない!!」
ドン、ドン、ドン、ドン
ラットは地面を跳ねながら追いかけてくる。
「おい! 魔法は使えないのか!!」
「まだ使えるのは重くない物を動かせる程度の魔法だ!! これではなにもできぬ! 死ぬ!! 死ぬ!! いやだぁぁ!!」
ディンプルディは涙をながしながらパニックになっている。
「くっ! 使えねえ!!」
(だがどうする執拗に追いかけてきてる! 使えるのはこのポンコツの魔法しかない)
ドンドンと跳ねて近づいてくる振動が伝わる。
遠くに両手で持てそうな岩がみえる。
「あれだ! おい!」
「いやだぁぁ! 死にたくないぃぃい!!」
「うるせぇ! 死にたくなきゃ聞け! あの岩動かせるか!」
「う、動かせるけどあんなもの当てるのは無理だぞ!」
「当てるんじゃない! 俺の合図で浮かせて指示するところへ置け!」
俺は止まると、振り返る。
ーーたゆたうものを、流れ動かせーー フロウムーブ
「浮かせたぞどうすればよい!!」
「合図したら俺の場所ににその岩をおけ!!」
迫ってくるラットをみて、ラットがすぐそばでとんだタイミングをみて横にとんだ。
「今だ!!」
「わ、わかった! えい!!」
岩が地面に落ちる。
ガッ!! ドオオオン!!
その上に跳ねたラットが踏みつけ、体勢を崩すと地面に倒れた。
「いまだ!!」
俺とディンプルディは木の枝を使って何とかラットを倒した。
「ふぅ、なんとか倒したみたいだな」
「......ふ、ふ、ふ、はっはーはっは、魔王たる余に向かうとは愚かな!」
そうディンプルディは高笑いしている。
「怯えて泣きわめいたのによくそんなこといえるな」
「お、おびえてない! 泣いてもない! ふふん、あれは貴様を動かすための演技だ。 だまされおったな」
「あっ! ラット!」
「ひ、ひぁいいい!」
飛び上がりうずくまってブルブルふるえている。
「どこが演技だ」
「なっ! ち、ちがう、これはあれだ! あれ!」
「わかったチキン魔王」
「だれが鳥魔王だ! ちがう! 断じてちがう! チキンではない!」
後ろで両腕をブンブンふりながら、わめくディンプルディを無視する。
「さあ、ギルドに戻るぞ。 鳥」
「だれが鳥だ!! せめて魔王をつけろ!!」
俺たちはギルドにもどり、カウンターにいくと、受付嬢にカードを渡す。
「はい、確認しました。 では冒険者登録のほうをさせていただきます。 サキミさま、ディンさまですね」
(千年たってるとはいえ、さすがに魔王の名前はまずいからな)
それから、ギルドの報酬、カードへの入金などの説明を受ける。
「依頼はあの掲示板にありますので紙をお持ちください。 それとカードに一時金が供与されますので」
「金がもらえるのかありがとう!」
「ふむ、わかった」
掲示板に目を通す。
「試験のラット、あれで弱いモンスターなんだろ。 ならモンスター討伐は無理だな」
「なにをいっておる。 みよモンスター討伐が高額な報酬だろう、討伐一択だろーが」
「おまえがなにいってんだ。 他のモンスターなんて、無理に決まってんだろ!」
「あれは、少し大きかっただけだ! 多分千年は生きておった。 魔王クラスのラットだったのだ! これだこれをやるぞ!」
そうむきになって掲示板から一枚の紙をはがした。
「ブレイドベア!? 熊じゃねーか! 絶対だめだ! 死ぬつもりか!」
「やだー!! 絶対これじゃなきゃやだーー!!」
床に寝転がりバタバタとさわぐ。 周りがあわれみの目を向けてくる。
(こ、こいつ!!)
「わかった! わかったから! だがこいつに勝てる方法があるんだろうな!」
「ああ、当然だ!」
自信ありげにディンがいうので、仕方なく依頼をうけた。
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