第23話 彼女でもないくせに 瑠奈視点

「なーにが『これ以上春人くんに近づかないでください』よ。彼女でもないくせに」


 どうせ市川パイセンの部屋に泊まったこともないんでしょ。彼女ヅラしてウザ。


 あんな胸がでかいだけの女に、あたしが負けるわけないし。


 あたしのほうが、ずっとずっと昔から、市川パイセンのことが好きだった。


「市川パイセンのベッド、すっごく気持ちよかったなー」


 市川パイセンの匂いを覚えている。


 気持ちが落ち着く、大好きな匂い。


「あたしを助けてくれた市川パイセンを……誰にも渡すつもりないから。そのためなら——」


 何でもする。


 中学の時、女子にいじめられていたあたしを市川パイセンは助けてくれた。


 他の男子たちはいじめていた方の女子の話を信じて、あたしのことを誰も信じてくれなかった。

 

 市川パイセンだけが、あたしを信じてくれた。


「市川パイセンのためなら……どんなことでもする。絶対に負けない」


 ——プルルルル!


「あ、電話だ……え?」


 あの女からだ。


「なんですかぁ。宮本先輩」

「約束、破りましたね」

「破ってないですよー」

「あたしはすべて見てました」

「はあ?」

「春人くんと……寝ましたね?」

「えっ……どうしてそれを?」


 背筋が凍った。


「あたしは何でも知っています。約束を破った桜庭さんには、お仕置きが必要ですね」

「盗撮してたの? マジあり得ないんですけど」

「覚悟しておいてください。悪い子はお仕置きです」

「頭おかし——」


 電話が切れた。



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