第15話 あたしの全部をもらってほしい

「あたしの全部を、春人くんにもらってほしい……」


 一糸纏わぬ姿。


 お湯に濡れた、柔らかそうな白い肌。


 たわわな胸に、俺の目は吸い寄せられていく——


「証がほしいんです」

「証って……?」

「あたしが春人くんのものだって言う、証」

「俺のものだなんて……」


 ふわりといい匂いがする。


 甘い匂いで頭がいっぱいになってきた。


 俺が動揺していると、


「胸……小さいですか? 貧相な身体でごめんなさい」


 宮本さんは不安げな顔で、自分の胸を触る。


「貧相だなんて……」


(Eカップ……いや、Fカップはあるかな。貧相どころか完璧すぎるだろ)


「それなら、春人さんのものにしてくれますね?」

「……いや、宮本さんは誰かのものじゃないよ」

「え?」

「宮本さんは、宮本さん自身のものだ。もっと自分を大切にしてほしい」


 俺は床に捨てられたタオルを拾い上げて、宮本さんに渡した。 


「春人くん……」

「俺はもう出るから」


 風呂から出ようとすると、


「春人くん。ひとつだけ、お願いがあります」

「お願い?」

「あたしのこと、下の名前で呼んでほしいです」

「……わかった」

「じゃあ、呼んでみてください」

「えーと……」


 なんかちょっと恥ずかしいけど。


「早く言わないと、また脱ぎますよ?」


 むーっと頬を膨らませる宮本さん。


「亜美……さん」

「さんは要らないです」

「……亜美」

「ありがとうございます♡」

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