3話 五月闇

 あの日、外はあやめもわかぬ闇だった。風が吹き、刈り終えたばかりのバロメッツが寒さに鳴いている。寝室の窓に、かすめるようにして灰色の影が映った。わたしは窓辺にいき顔を出す。どうやら、それは、薄汚れた驢馬で、ゆっくりと闇の中へ消えていった。

 「驢馬なんて、飼っていたの?」わたしは顔をひっこめる。

 「驢馬の成る植物もあるからね」かれはベッドに腰掛けてナイフを磨いていた、「冬に、驢馬が成り、夏に、羊が成るよ」

「羊だけだと思っていた。他にも成るの?」わたしは、窓際でピアノの椅子に腰掛けた。

「生き物ならなんでもなるよ。家の近くには、驢馬と羊と鶏の植物がある」かれは窓辺に駆け寄ると窓から飛び出して、闇の中へ消えた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る