2話 金魚
英字で卑猥な言葉が落書きされた運河沿いを散歩する。ナローボートもまだ眠る薄暗い朝。波のない水面は周りの風景を反射している。橋の下の暗がりに、運河を覗き込む赤い生物がいた。
それは、身長は幼児ほどで全身が鱗で覆われている。円背した老人のような立ち姿をしていた。左手には身長と同じくらいの長さがある縫針を持っている。
それが、唐突に運河に縫針を打つ。水飛沫が上がり、水面を綾が埋め尽くした。3ftはあるだろうか。真っ赤な金魚が刺さっている。
それはこちらを振り向く。それの顔は金魚だった。それはわたしに興味を示さず、採ったばかりの真っ赤な金魚にナイフを突き立てる。肛門から鰓下へと音もなく、焦茶色の刃が通る。赤黒い内臓が溢れる。腐敗した卵のような香が漂った。
暫く、真っ赤な金魚が金魚では無くなっていく様を眺めていたが、友人との約束があるので、わたしはホテルへ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます