2話 金魚

 英字で卑猥な言葉が落書きされた運河沿いを散歩する。ナローボートもまだ眠る薄暗い朝。波のない水面は周りの風景を反射している。橋の下の暗がりに、運河を覗き込む赤い生物がいた。

 それは、身長は幼児ほどで全身が鱗で覆われている。円背した老人のような立ち姿をしていた。左手には身長と同じくらいの長さがある縫針を持っている。

それが、唐突に運河に縫針を打つ。水飛沫が上がり、水面を綾が埋め尽くした。3ftはあるだろうか。真っ赤な金魚が刺さっている。

 それはこちらを振り向く。それの顔は金魚だった。それはわたしに興味を示さず、採ったばかりの真っ赤な金魚にナイフを突き立てる。肛門から鰓下へと音もなく、焦茶色の刃が通る。赤黒い内臓が溢れる。腐敗した卵のような香が漂った。

 暫く、真っ赤な金魚が金魚では無くなっていく様を眺めていたが、友人との約束があるので、わたしはホテルへ帰った。


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