第80話 SIS当日 

 AM 7:06




 翌朝。


 寝間着を着た身体が薄らと汗ばむ気持ち悪さを感じて、俺は目を覚ました。




 デスクに埋め込まれた時計を見ると、時刻は朝の七時を回ったところだった。


 どうせ七時半には起きる予定だったので、俺はスマホの目覚ましを解除して起きる。




 カーテンを開ければ、太陽の照りつける青空が広がっていた。


 昨夜はぼんやりとしか見えなかったアリーナの全容が、朝日を浴びてくっきりと映っている。




「よし、やるか」




 俺は気合いを入れ、身支度へと洒落込む。




 AM 7:25




 着替えと歯磨きを済ませた俺は、朝食に向かう。


 朝食は各自、ホテルのバイキングで行うことになっている。


 


「えーと、朝食の会場は……レストラン「朝焼け」……二階フロアの南側か」




 エレベーター横に設置された、階ごとの施設表示を見ていると、エレベーターがやって来た。


 エレベーターには、既に他のお客さんが三人ほど乗っていた。どうやら目的地は同じなようで、二階を示す行き先表示のランプが黄色く光っている。




 俺を乗せたエレベーターは二階へ直行する……かと思いきや、途中9階で止まった。


 ドアが開いて、誰かが入室してくる。




「あ」


「あ」




 その誰かを見た瞬間、俺もその人も小さく声を出した。


 エレベーターに乗ってきたのは、芹さんだったからだ。




 俺は少し奥にずれ、芹さんを出迎える。


 昨日、少し情けない姿を見せたとでも思っているのだろうか。少し気恥ずかしげに眉根をよせて、おずおずと乗り込んできた。




 なんとなく気まずいな。


 周りのモブがいて助かった。たぶん二人きりだったら、いろいろと間に困っただろう。




 そんなことを考えている間に、二階に着く。


 他の客と一緒にエレベーターを降り、レストランへと向かう。


 芹さんは、二メートルくらい後ろからついてきていたが……




「あの、暁斗さん」




 不意に話しかけてきた。


 俺は立ち止まり、彼女の方を振り返る。


 少し声は弱々しかったが、目に力が戻っている。目元に隈もないようだし、どうやら昨日はぐっすり眠れたみたいだ。




「どうしました?」


「昨日は、その……すいませんでした。変なことに、付き合わせてしまって」


「別に構いませんよ。あなたのサポートが、今回の俺の任務ですから」




 そう。


 今日の俺は芹さんのサポート係。


 メンタルケアまでしっかり行うのも、側近としての勤めなのだ。




 あれ。今の俺、なんだか少し従者っぽい?


 お嬢さまに10年使えるベテランの執事的な?




「私、頑張りますから」




 俺のくだらない妄想を掻き消すように、芹さんがそう宣言した。




「今日私は、何がおきてもステージに上がって、かならず元気を届けます」




 その表情には、確かな決意が漲っている。


 それを向けている相手が誰なのか、今更聞くまでもない。




「はい。応援しています」




 俺は、なるべく勝ち気に笑顔を向ける。


 陰キャが抜け切れていないし、勝ち気ってどんな感じで表現するんだろうなどと考えながら。




 芹さんも、俺に負けじと溌剌とした笑みを返してくる。


 こうして。


 波乱と激動のSIS当日は、幕を開けた。


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