第49話 Sランク冒険者としての俺
――放課後。
SHRが終わったと同時に、クラスメイト達が一斉に駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ暁斗くん! 本当に、あのワイバーン一撃マンなの?」
「え、あーうん。そうだけど……」
正直、そのネーミングだけはやめてほしい。
そこはかとなくダサいから。
世間的にはそのネーミングで浸透しちゃっているから、今更どうすることもできないんだけど。
「マジかよお前。どうして今まで隠してたんだよ!」
「いやまあ……なんとなく?」
「じゃあさ、銀バッジ持ってるんだよな? 見せてくれよ」
「わかった。これ……」
「「「すげぇ!!」」」
ポケットから出した瞬間、クラスメイト達が我先にと手を伸ばす。
四方八方からしみじみと見つめて、目を丸くしている。言っとくけど、デザインは君らのと同じだからな?
「Sランクのバッジだ! 初めて見た!」
「いいなぁ! 羨ましいぜ」
「ねぇねぇ暁斗くん。サインちょうだい!」
「あ、美奈ずりぃ! 俺にも書いてくれよ!」
「私にも!」
俺の周りには、それはもう大量の人だかりができていた。
予想はしていたが、ここまでとは。
美奈さんの差し出してきた手帳にサインしながら、俺は物思う。
正直に言うと、思うところがないわけじゃない。
彼等は、俺が「話題沸騰中のSランク冒険者」だと知ったから、こうして接してくれるのだ。
「紋無し」としての俺は見向きもしない。
もちろん、それが普通だろう。「紋無し」と関われば、他の人からどう陰口を言われるかわからない。
君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなし。
厄介な者に近づくことで自分が煙たがられるくらいなら、そいつを斬り捨てて安全な友達を作った方が保身にもなる。
だから今までの彼等の反応は正しい。
そうは思っても、やはりSランクとしての俺だから、きっと輝かしい目で見ているんだなと思った。
ゆえに、「紋無し」としての俺しか知らなかった楽人や瀬良が、しっかりと俺を見てくれていたことが嬉しかった。
俺はきっと、この先「Sランク冒険者」として知られていくことになるだろう。
Sランク冒険者としての俺だけを見て、好意や嫉妬を抱く人も多くなるかもしれない。
だからこそ、俺という人間を見てくれる人を大切にしなければと思った。
そして、ふと彼女の顔が浮かぶ。
「学校のアイドル」「有名配信者」「高嶺の花」ともてはやされている、芹さんの笑顔を。
彼女も、俺と同じ事を考えているのだろうか? と。
……まあ、難しいことはおいおい考えていけばいいか。
俺は、5人目のサインを書きながら、苦笑する。
――Sランクとしての俺に対して向けられる視線。
それ自体は、寂しくもあれど嬉しくないわけじゃない。
視線に怯え、ずっと過去から踏み出せずにいた俺が、心の奥底で待ち望んでいた光景だ。
そして、今度はもう失敗しないようにしよう。
二度と調子に乗って、誰かを傷つけることのないように。
俺は、様々な色の眼差しを受けながら、密かにそう決意した。
△▼△▼△▼
――そうそう。
そういえば、マウンテン三兄弟だけど。
俺を散々苛めたあげく、苛めた相手が超大物だったから、相当赤っ恥を搔いたらしい。
その日はそそくさと帰って、まるまる一週間学校を休んだ。
しかし、それが裏目に出たというか……学校中に噂が尾ひれをついて広がり、いろいろと脚色されまくったあげく、彼等が復帰してくる頃には「Sランクの有名人に喧嘩を売ったあげく負けて、しょんべん撒き散らして逃げた小者」と言われることとなる。
流石にちょっとバッチイし可哀想だけど、まあ自業自得だ。
しばらくは嘲笑されるだろうが、どうか乗り越えて欲しい。
がんばれー(棒)
とまあ、そんなこんなで、金曜日まで学校中俺の話題で持ちきりになり、大変だった。
先週、芹さんに手を引かれていた陰キャが、話題沸騰中の俺だとわかると、みんな驚くと同時に納得していた。
だから、そういう方向で懐疑を向けられることはなくなったが――代わりに尊敬の眼差しと、(主に女子からの)熱烈な視線と、一部生徒から嫉妬に満ちた視線を絶えず受けるようになった。
放課後における瀬良との二人きりの弓道場に、数人の人影が忍び込んできたりもしたから、本当に勘弁してほしいと思った。
その人影に対し、なぜか俺よりも瀬良の方が不機嫌になっていたが――それだけ練習に集中したいのだろう。人がいると気が散るもんね。真面目だよなぁ、瀬良は。
そうして妙に長く感じる一週間が終わり、終末になる。
ちなみに、瀬良も芹さんも、俺が正体を明かすことになったことに対して、特に何か小言を言うでも無く背中を押してくれた。
「先輩がこれから先何をしようと、私は側で応援しています。先輩の秘密を共有する数少ない人間、という立場じゃ無くなったのが、少し寂しいですが」
「暁斗さんなら、きっと大人気冒険者になれますよ。数々の有名アイドルを研究してきた私が言うんですから、間違いありません。応援してます」
そう言ってくれた2人の笑顔が、何よりも眩しくて――怒濤の一週間を乗り越えることができたのだった。
どっと疲れたが、この週末は実家に帰らなければならない。
――そう。今度こそ、スマホを買うために。
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