第46話 種明かし
「な、なんだと!?」
力哉が動揺も露わに叫んだ。
自身の勝利を疑っていなかったのだろう。
担任教師から出た1位の人名は、この場にいる誰もが予想していなかったものなのだから。
“篠村暁斗”
その名を耳にした誰もが、唖然としていた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
だが、いち早く我に返った目つきの悪い少年――山戸が、担任の前に躍り出る。
「暁斗が1位って、どういうことですか?」
「そうですよ。そもそもこいつは「紋無し」です! ポイント稼いでること自体おかしいじゃないですか!」
山戸の言葉に咲希が続く。
他のクラススメイトも、口々にそれに賛同する。
だが彼等の口調は、俺に対する恨みよりも、「一体何が起きたんだ?」という困惑した様子を湛えていた。
「私も驚きましたが……事実、暁斗くんは8800ポイントを稼いでいます」
「「「はぁ!?」」」
担任の言葉に対し、全員の驚く声が重なる。
「8800だと!? 俺でさえ6500ポイントなのに……! 何をしたテメェ!」
肩をわなわなと振るわせ、力哉が俺の方へ歩いてきた。
「どんなイカサマしやがった!?」
「別に。「紋無し」なりに正攻法で稼いだだけだよ」
俺は、すまし顔を作って言った。
イカサマも何もしていない。
あくまで「紋無し」として、かつダンジョン運営協会の定めたルールに違反しない行動でポイントを稼いでいる。
それは、受付のお姉さんに聞けばばっちり証明してくれる。
だから、イカサマと罵ってくる負け惜しみの言葉が心地良かった。
あ、いかん。
俺ちょっと性格悪いかも。
まあいっか。
今まで散々バカにされたし、これくらい許されるはずだ。
「正攻法だぁ!? ふざけんなよ。「紋無し」ができることなんてねぇだろうが!」
「そんなことはないさ」
俺は、顔を真っ赤して怒る力哉に対し、淡々と告げた。
「知らないようだから教えてやる。バッジを持っていなくても、これを持っていればダンジョン運営協会の敷地に入って、施設を利用できるんだ。まあ、ダンジョンにだけは入れないけど」
そう言って、俺は「ダンジョン外施設利用許可カード」を、力哉の鼻先に突きつけた。
「なんだそりゃ?」
「「ダンジョン外施設利用許可カード」と言ってね、危険が付きまとうダンジョンには入れないけど、ダンジョン運営協会が定める敷地内の施設の利用や散策、イベントの参加ができるんだ」
「それがどうした?」
「俺は、この一時間あるイベントに参加していたんだ」
にやりと不敵に笑い、俺は言葉を続けた。
「この裏山は、ダンジョン運営協会が買い取っている。つまり、ダンジョン運営協会の土地で、様々なイベントが行われているんだ。そして……この裏山では週一で「収穫イベント」が催されている」
そこまで言うと、ようやく力哉は俺の言わんとしていることを悟ったようだった。
「まさか、森の中で獲得したものを売って……?」
「そういうことだ」
色とりどりの山菜に、木の実。さらには綺麗な沢で獲れたイワナに
この裏山は、まさに自然の宝庫なのだ。
本当なら、キノコや栗、ブドウがとれる秋が「収穫イベント」における稼ぎ時なのだが、夏でも全力でかけずり回ればそこそこの量を収穫することが出来る。
もちろん、力哉達だってこの「収穫イベント」に参加する資格を持っている。
だが、ダンジョン運営協会のメインはダンジョン攻略であり、己の力を誇示したい力哉達は、その選択肢を失念していたのだ。
「お前。最初からこうなることがわかっていて、勝負に乗ったのか?」
「ま、今日が「収穫イベント」の日だってことは覚えてたし。勝てるだろうなとは思っていたさ」
俺は、ここぞとばかりに威張って言う。
「収穫イベント」に参加する人数は、実はそこまで多くない。
なぜなら、ダンジョンの20階層より下でモンスターを狩った方が、単位時間当たりで稼げる金額が遙かに上だからだ。
だがしかし、今回の「ポイントバトル」は5階層より上。
ろくに強いモンスターもいないし、稀少な鉱物もない。
金額=ポイントとなる関係上、俺の勝利は揺るぎないと思っていたのだ。
「だが、驚いたよ。まさかヤマオドガラスを倒して、卵をとってくるなんてね。危うく負けそうになるとは思わなかった」
俺は、勝者の余裕を崩さずにそう告げる。
だが、次に力哉の口から漏れた言葉に、俺は首を傾げた。
「は? 俺はヤマオドガラスとやらの巣から、盗んできただけだが?」
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