第42話 校外学習の概要
そんなこんなで、今日も一日が始まる。
降りしきる雨が指し示すように、どうやら俺の学校生活も雲行きが怪しいようだった。
その証拠に、SHR《ショートホームルーム》の間、例の三人が後ろの席にいる俺をちらちらと振り返っては、鋭い眼を向けてくる。
俺は、そんな彼等に気付かない振りをしつつ、外を眺めていた。
SHRが始まる前、楽人とその家族へサインを書いたあと、俺は教壇へ上がった。
教卓の中にある、席順と生徒名簿を確認するためだ。
その結果三人の名前が判明したが、大柄の男子が
俺は、彼等三人を、親愛を込めて「マウンテン三兄弟」と呼ぶことにした。
理由は単純。
「“山”崎力哉」「石井“山”戸」「寺“山”咲希」。
三人とも、名前に“山”が含まれるからだ。
もっとも本人達に「マウンテン三兄弟さん」と呼ぼうものなら、袋だたきに遭いそうだから、この呼称は心の中だけにしようと思ったのだが。
そんなことを考えていると教壇に立っていた担任の女性教師が、「重要な連絡です」と言った。
「本日の五限と六限にて行われる校外学習だけど、当初の予定通り「裏山ダンジョン」での散策活動となります。今日は個人・グループ別対抗の「ポイントバトル」を行う予定よ。各々好きな人同士でグループを組んでも構わないけれど、グループ総数が5グループ以下になるように。出発時になっても決まっていない場合は、いつも通り先生の独断で決めさせてもらうわね」
話は以上とばかりに、担任は「それじゃあ今日も頑張りましょう」と告げた。
担任が去って行ったとたん、ワッとクラス全体が活気を帯びる。
この学校には、一ヶ月に一度「ダンジョン散策」という校外学習の時間が設けられている。
日本各地にダンジョンが存在する現代、安全対策をしてそのような学習の時間を設けている高校も少なくない。
本校が指定するダンジョン散策の授業のルールは以下の通り。
一、5グループ以下の少人数グループを組むこと。
二、1、2年生は「ダンジョンの1~5階層」。3年生は「1~9階層まで」が、校外学習の指定範囲となること。
以上を加味し、行われる特別授業となる。
今日は、一ヶ月ぶりの課外授業。
ダンジョンに入り浸り、己の腕を磨いている彼等からすれば、これは真価を見せる月に一度の大チャンスなのである。
今日行われるゲーム形式は、「ポイントバトル」。
ルールは簡単。
制限時間は60分。
5,6人のグループごとに散策し、低ランクのモンスターを討伐したり、アイテムをゲットする。
それをダンジョン運営協会の本部で換金し、そのお金=ポイントとなるのだ。
メンバー全員の獲得ポイントを合算した「グループポイント」と、個人で獲得した「個別ポイント」の二パターンで、優勝が争われる。
クラス規模で行われる小さなバトルとはいえ、皆が張り切るのもわかる話であった。
と、俺の方へやってくる人達がいた。
例のマウンテン三兄弟だった。
「何か用?」
「ああ」
そう答えた力哉が、にやりと笑った。
なんか、嫌な予感がするな……
そんな俺の予感は、的中する。
「お前、俺達と勝負しろ」
「は?」
「今日のポイントバトル、「個別ポイント」でお前が俺達に勝ったら、今まで通り芹さんと仲良くすることを許そう。だが、俺達が勝ったら、お前は高校生活の間、俺の言うことを聞いて貰う」
いや、何様のつもりだよ。
たぶん、芹さんに恥を搔かされた当てつけだろうが、質が悪いな。
俺はイラッとしているのを悟られないように平静を保ちつつ、聞き返す。
「言うことって、たとえば?」
「購買であんパン買ってくるとか、俺の代わりに放課後の掃除をするとかだ。もちろん、芹さんに接触することを禁止する」
……一昔前のガキ大将かよ。
なんだか要望が可愛くて、イライラが吹っ飛んで呆れてしまった。
「ちなみに、勝負を蹴ったら?」
「お前と芹さんの関係について、よくない噂を流してやる」
ま、そうだよね。
そんなとこだろうと思った。
ものすごくガバガバな計画の当てつけだが、厄介なのは事実だ。
何しろコイツ等は、俺が絶対に勝てない勝負であることを熟知した上で、勝負を吹っかけているのだ。
忘れてはいけないが、俺はこの学校では「紋無し」ということで通っている。
つまり、端から見て俺は、ダンジョン運営協会における「ダンジョン散策可能資格」を所持していないのであり、ポイントを稼ぐことができないのである。
ダンジョンに入れないのだから「個別ポイント」など稼げるわけもない。
「グループポイント」での勝負なら、どこかのグループに入れて貰って、他力本願で「グループポイント」を稼いで貰うこともできなくはないが、それを見越してかその選択肢を封じられている。
陰湿というかなんというか……コイツ等にプライドというものはないのだろうか?
さて、どうしたものかな。
勝負を吹っかけられた以上、俺は乗るつもりでいる。
だから、俺が悩んでいるのは、どうやってこいつらを負かしてやろうかということだ。
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