第43話 策略巡らせて

 俺がバッジを持っていない「紋無し」であるとバカにしているなら、Sランクの実力を見せつけて、完膚なきまでに自尊心をへし折ってやるのも手だと思う。




 でも、ただそれをするのでは面白くないのだ。


 実力をバラすことに関しては、多少迷っている面もあるが、別に隠し通すことも無いと思っている。




 これは、瀬良や芹さんが俺を支えてくれたからという理由が大きい。




 もう、前に踏み出すきっかけは貰っている。


 それをマウンテン三兄弟達に邪魔されたというだけのことなのだ。




 じゃあ、何が問題かというと、こいつら言い訳して来そうなんだよね。




 “はぁ? そんな実力あるなら隠すなよ。さてはお前、最初から俺達をバカにする目的で実力隠してやがったな。やってることが陰湿なんだよ。まじキメェ!”




 的なことを言われる気がする。


 性格がひん曲がったこいつらのことだから、どうあっても俺を否定する行動に移るだろう。




 だったら最初から、相手の土俵に立った方がいい。


 バカにしていた「紋無し」が、思わぬ形で下克上してくる。それも、ただの「紋無し」のままで。




 そうなれば、何も文句は言えまい。


 ただ純粋に、悔しさだけを与えることができる。


 うん、これでいこう。




 俺は覚悟を決め、凄んでくる力哉を真っ直ぐに見据えて答えた。




「お前等の勝負、受けるよ。どのみち受けざるをえないみたいだし」


「賢明だな。精々頑張りたまえよ」




 力哉は剛胆に笑い、山戸と咲希を連れて戻って行った。




△▼△▼△▼




 やがて、午前の授業が終わって昼休みに入り、あっという間に校外学習の時間がやって来た。


 降りしきっていた雨も四限目が終わる頃には小雨になっており、今はもう止んでいる。




 最終的に、グループはA~Eの四つになった。


 力哉達マウンテン三兄弟はDグループ。


 俺は、いつもは見学という立場になるものの、今日に限っては楽人のいるグループに入れて貰った。


 ただし、「紋無し」という体であるため、ダンジョン内には入らない。


 あくまで、留守番だ。




 「紋無し」が同じグループに入るということで、他のメンバーは多少嫌そうな顔をしていたが、ゲームのルール上「紋無し」が加わったところで彼等にデメリットはない。


 これといってトラブルもなく、受け入れてくれた。




 一クラス32人だから、一グループあたり6人前後といった具合だ。


 俺が入ったのは6人のCグループ。


 一応、Dグループとの「グループポイント」勝負もできるのだが、彼等から条件に提示されていないため、気にしなくていいだろう。




 ――。




 五限目が始まったと同時に、クラスでの移動が始まり裏山ダンジョンへと赴いた。


 20分弱で、ダンジョンの入り口に到着した。


 


 ダンジョン運営協会の人から説明や諸注意を受けている間、浮き足立ったようにざわめくクラスメイト達。


 担任もそのことに気付いたのか、運営協会からの指示の後、「怪我をするリスクの低い階層での散策となりますが、くれぐれも気をつけるように。何かあったら、かならずダンジョン運営協会に「エマージェンシー・コール」を行うこと」と手短に必要事項を伝えた。




 かくして、60分の「ポイントバトル」が幕を開ける。


 


「せいぜい頑張ることだな。まぁ、何もできねぇと思うけどよ」




 力哉がそう罵るように告げて、ダンジョンの奥へと潜っていった。


 やがて、皆が行ってしまうと俺は独り取り残される。


 いつもなら、このあと休憩所で1人待っているのだが、今日は違う。




 俺は、受付に行くと、とあるカードを取り出した。


 薄緑色のプラスチックカードだ。




 これは、「ダンジョン外施設利用許可カード」だ。


 簡単に言うと、ダンジョンに潜る資格はないけど、ダンジョン運営協会が買い取った敷地内の散策・ボランティアやイベントの参加資格などが与えられている。




 実はこれ、俺だけではなく皆も持っているのだ。


 バッジというのは、この「ダンジョン外施設利用許可カード」+「ダンジョン散策可能資格」のことだと思ってくれればいい。




 ダンジョン内の散策資格を得るには、筆記と実技の両試験を通過する必要がある。


 それを通過すればバッジが貰えるし、実技だけ通過できず、筆記が合格した場合は、このカードが貰える。




 ちなみに、このカードはバッジを持っている者なら、受付に頼めば誰でも発行して貰える。


 まあ、バッジの劣化版なのだから当然と言えば当然だが。




 とにかく、俺はそのカードを受付に提出して、ある行動に移ったのだ。


 それは――


 


 ……。

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