第37話 瀬良の友達
「せ、瀬良!?」
驚いて、一歩後ずさる俺。
普段、外で友人と出くわすなどという機会が無いから。というのもあるが、何より瀬良の破壊力だ。
夏が間近に迫っているのもあり、彼女は薄手のワンピースを着用している。
ライトグリーンの涼しげなそれが、彼女の引き締まった身体のラインを一部強調するように、ゆるりと覆っている。
しかも、今日はいつものポニーテールではなく、うなじあたりで髪をくくっていた。
「驚きました。まさか、先輩がここにいるなんて……先輩? どうかしましたか?」
「あ、ああ……いや。なんでもない」
瀬良に顔を覗き込まれて、俺は我に返る。
いや、これは凶悪すぎるだろ。
私服姿の瀬良が、反則級の可愛さでビビった。
ちらりと周囲に視線を向けると、何人かの男性が瀬良の方を見ている。
うん。見るよね、そりゃ。
めっちゃ美少女だもの。
「そうですか。ここに来たってことは、先輩もしかしてスマホデビュー?」
「そ。俺には縁の無いことかと思ってたけど、必要になったもんで」
「お、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……?」
なにがおめでとうなのか、イマイチ良くわからないが、とりあえず頭を下げておく。
「それはそうと、気になることがあるんだが」
「? なんです?」
「そちらの方は?」
俺は、瀬良の斜め後ろで俺達の様子を窺っていた少女の方に視線を向けた。
茶髪をサイドテールに括った、小柄の少女だ。
小柄と言っても、瀬良に比べてということである。
実は、瀬良は女子の平均身長より少し高いのである。目算だけど、たぶん芹さんよりも身長はあるはず。
こちらは、オシャレな藍色のシャツに、フリル付きのスカートという格好だ。
大きな亜麻色の瞳で、俺達をずっと意味ありげに見ていたのだった。
「ああ、この子ですか? この子は――」
「初めまして先輩さん。私、
「こちらこそ、よろしくお願いします双葉さん」
双葉さんがぺこりとお辞儀をしてきたので、こちらもお辞儀を返す。
だが、それに対し双葉さんはムスッとした表情で俺を見てきた。
なんか失礼なことしただろうか?
「もう。堅苦しいのはやめてください先輩さん。私は後輩なんですから、「双葉さん」じゃなくて「愛佳」って呼んでください。敬語も禁止です」
メッ、と言わんばかりに人差し指を立てて忠告してくる双葉さ――愛佳。
長幼の序、みたいなのは正直あまり意識していないし、そもそも彼女とは今会ったばかりだから、いきなりフランクに接するのもどうかと思ったが。
本人たっての希望ゆえ、無視するわけにもいくまい。
「わかったよ。そういや俺の方はまだ自己紹介してなかったな。名前は篠村暁斗。瀬良と同じ弓道部で二年だ。よろしく、愛佳」
「はい、よろしくお願いします! 暁斗先輩」
愛佳は、満面の笑みを浮かべてそう言った。
だが、その無邪気な笑顔が急に陰りを見せる。
何か、悪巧みをしているような……そんな表情。
一体何だ?
そう思う俺の前で、愛佳は尋ねきた。
「ところで先輩。さっきから気になっていたんですが、瀬良とすご~く親しげでしたよね? もしかして、二人は付き合ってます?」
「……はい?」
「ちょっ――!?」
俺は首を傾げ、瀬良が焦った様子で声を上げる。
「ちょっと待て。一体どうやったら、いきなりその結果に落ち着くんだ? どう見てもただの先輩と後輩の会話だっただろ」
「まあ、それはそうですけど。な~んか怪しいって言うか、より端的に言うと私の恋愛センサーにビンビン来たって言うか。要するに、女の勘ってヤツです!」
愛佳は、自信たっぷりにそう言ってみせる。
「それ、なんの根拠にもなってないだろ」
「そ、そうだよ愛佳! わ、私と先輩がつ、つつつ、付き合ってるなんて……! せ、先輩に失礼でしょ! やめてよ!」
瀬良が、俺に便乗して諫めてくれた。
ただ、異常なまでに切羽詰まって見えるのだが、それはなぜだろうか。
「ごめんごめん、冗談だから」
愛佳の肩をポカポカと叩く瀬良。
そんな瀬良を宥めて、愛佳は俺の方を振り向いた。
「まあ、今までのは冗談としても。この子のこと、大切にしてやってください先輩」
「ちょっと、愛佳何言って――」
「そんなの、当たり前だろ?」
「――っ!?」
何か反論しかけていた瀬良だったが、俺の返答を聞いた瞬間押し黙る。
よくわかんないけど、耳まで真っ赤にして俯いていた。
愛佳は愛佳で、ニヤニヤしながら「これはこれは~」と言って、瀬良を見ている。
二人で何をしているのか、イマイチノリが掴めないが。
瀬良が普段から、彼女の手玉に取られているんだろうなということはわかった。
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