第27話 一難去って、また一難

 ――翌日の土曜日。


 新たな一歩を踏み出す決意をした翌日ということもあって、俺は自宅でゆったりとくつろぎながら、今後のことを考えていた。




 ――と、言いたいところなのだが。


 そうもいかなかった。


 何しろ、昨日の生配信での出来事が、前にも増して話題となったから、その対応をする羽目になったのだのだ。(ちなみに昨日は、ダンジョンを出た後、瀬良にスマホを返して速攻帰宅した)




 とにかく、休日の早朝に芹さんからの電話でたたき起こされた俺は、学校近くの公園で待ち合わせをし、そのままDUUM本社へと向かった。




 そこでダン・チューバーとしての彼女を今後支えていくとお気持ち表明をし、昨日起きたアクシデントについての説明動画を芹さんと撮り、SNSに投稿。


 それも、芹さんとのツーショットで。




 女子との初めてのツーショットが、プリ◯ラとかじゃなくて、まさかの記者会見的な真面目動画(※翌日全国ニュースに載ったことは言うまでもない)だというのは、日本全国でも俺が初めてではなかろうか?




 アクシデントについては、ワイバーン事件の頃まで遡り、俺との関係性も含めて、視聴者がなるべく納得のいく説明を行った。




 ワイバーン事件で俺がその場に居合わせたのは、紛れもない偶然であったこと。


 その後、彼女が俺を護衛として雇いたいと言ってきたが、諸事情から断ったこと。


 事務所側の意向も兼ねて臨時の護衛を雇い、ワイバーン事件の説明と、そのことで心配させてしまった視聴者への謝罪を兼ねた配信で、雇った護衛が私欲に暴走したこと。


 その可能性に気付いた俺が、彼女を助けに動いたこと。




 それから……一度彼女の依頼を断ってしまったため招いた結果だと、負い目を感じ、彼女の専属護衛をする決意をしたこと。




 それらの事実を、一部虚偽を混ぜ、できるだけオブラートに包んで15分の動画にまとめた。


 もちろん、一度依頼を断ったことで招いた結果なのは事実であり、多少の罪悪感はあれど、そのことを理由に専属護衛をする決意をしたわけではない。


 ただ、彼女の体裁を保ち、彼女の夢を叶えるには俺が悪役を買って出る必要があったから、微妙に事実を改変したのだ。




「私が招いた結果なので、あなたが責任をとる必要はないんですよ!」




 芹さんはそう言ってくれたが、毒喰えば皿までというか、乗りかかった船というか。


 もう後戻りはできないし、芹さんを支えると決めたのだ。


 負い目を感じる芹さんを諫め、微妙な事実改変を強行した。




 まあ、芹さんは終始申し訳なさそうな顔をしていたが、これでいい。


 彼女の夢を支えたいと思ったから、俺は決意をしたのだ。 


 


△▼△▼△▼




「……その、ありがとうございました」




 一仕事を終え、DUUMが入っているテナントビルを出ると、不意に芹さんが声をかけてきた。




「ここまでしていただいて、私は何をすればいいのか。本来なら、嫌われて見限られてしまっても、おかしくないのに」


「そうですね……正直、最初はムッとしましたよ。でも、あなたにもいろいろあるんだって、知りましたから」




 俺達は、車が行き交う大通りの脇を歩きながら話をする。


 ちなみにだが、現状話題の中心角にいるだけに、芹さんはマスクとサングラスを付けて顔を隠し、俺はいつもの陰キャモードで過ごしている。




 だから、人が多く行き交う大通りでも、俺達の正体に気付く者はいない。


 有名人て、外を出歩くとき大変なんだなと思った。




「あの……昨日も少し思ったんですけど」




 芹さんは、俺の前に躍り出て顔を覗き込んでくる。


 サングラスの中に、綺麗な赤い瞳を見て、俺はごくりと唾を飲み込んだ。




「な、なんですか?」


「もしかして暁斗さん、私の家庭事情を――」




 芹さんが、真剣な顔で何かを言いかけた、そのときだった。


 芹さんの履いているプリーツスカートのポケットから、知らない曲が流れてきた。


 どうやら、スマホの着メロのようだ。




「ご、ごめんなさい」




 芹さんは一言断って、スマホを確認する。


 


「……社長からだ」


「社長?」


「AISURU・プロダクションの社長です。すいません、ちょっと待っててください」




 芹さんは、画面をタップしてスマホを耳に当てた。


 AISURU・プロダクション……確か、芹さんの所属しているアイドル事務所だったか?


 一体なんの用だろう。




 そんなことを考えながら、ぼんやり車の群れを見ていた俺は、芹さんの口から放たれた「えっ!?」という声に驚いて、彼女の方を振り返った。




 そして、思わず眉をひそめた。


 芹さんの顔から、血の気が引いていたからだ。




「どうしたんですか?」


「……るって」


「はい?」




 芹さんは、スマホを握る手を力なく下げる。


 それから、俺の方を向いて震える声でもう一度言った。




「……アイドル契約を、解消するって」

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