第23話 彼女の元へ

《暁斗視点》


 学校を飛び出し、一直線に裏山へ向かう。


 今まで、こんなにも全力で走ったことがあっただろうか?




 とにかく目立たぬように生きてきた俺は、人目も気にせず全力疾走したことなんてない。


 たぶん、俺の時間が止まる以前はあったんだろうが、もう思い出せない。


 今は、過去を振り返るより前に足を踏み出すことに必死だった。




 吹き付ける風の暑さを感じながら、地面を蹴ってひたすらに駆ける。




 交差点を鋭角に曲がり、裏山の姿を目に焼き付ける。


 前髪を取り払ってクリアになった視界には、いつもと同じ裏山も、全く違う雰囲気を放っているように感じた。




 途中、仲良く並んで話ながら下校している女子中学生の二人組とすれ違う。




「ねぇ、あの人」


「う、うそ……」




 すれ違った直後、そんな声が聞こえたが、彼女たちの意識をその場に置き去りにして走り続けた。




 ――。




 裏山ダンジョンに到着した俺は、胸に銀のバッジをつける。 


 この銀バッジは、名実ともに銀メッキで塗装してあるだけのものだった。




 だが――いつまでも銀メッキのままでいるわけにはいかない。


 その覚悟を決めるまでに随分と時間がかかってしまった。




「お、おい。あれ……」


「マジで? なんでこんなところに!?」


「うっそ! ホンモノ!?」




 ダンジョンの入り口で屯たむろしていた人達が、俺の方に注目して口々にそう言った。


 全員の目が、俺の方に向けられている。




 一瞬、夕暮れの教室でクラスメイト達に非難の目を向けられたトラウマを思いだし、足が止まりそうになる。


 が――歯が割れそうになるほど食いしばり、足を大きく前に踏み出した。




 丁度よかった。


 いいリハビリになるじゃないか。




 洞穴のようにぽっかりと口を開けているダンジョンへ入った俺は、瀬良のスマホの画面を見た。


 その瞬間、心臓が警鐘を鳴らした。




『ナズナさん、こっちに隠し宝箱があるんですが、知ってました?』


『え? ホントですか? 知らなかった~』




 俊平が、洞窟の脇にある脇道を指さしながら、得意げに言う。


 それに対し、嬉々として応じる芹さんの図。




「っ! 少しは怪しんでくれ!!」




 デコボコとしたダンジョンの地面を踏破しながら、俺は芹さんに届くはずもない声を上げる。


 ダンジョン内を映し出す映像には、特徴的な正四面体の黄色い鉱石が映っている。


 


 この鉱石は確か、8階層と22階層にのみ生えているものだ。


 10階層より上層に行けば問題ない、と言っていたから、おそらく8階層の方だ。




 ふと、前方に何やらモンスターがいる気配を感じて、目を凝らす。




 洞窟の天井に、コウモリに似たモンスターが群がっていた。


 Dランクモンスターのクローズ・バットだ。


 特に攻撃力が高いわけでも無く、どう猛でもないため、低ランクモンスターとして扱われている。




 ただし、群れで行動して縄張りを持っているため、縄張りに足を踏み入れると周りを飛び回って威嚇してくる、非常に鬱陶しいモンスターだ。




「8階層に行くにはこのルートが一番近いっていうのに……厄介な!」




 行く先を塞ぐように、クローズ・バットの群れが待ち構えている。


 だが、事態は一刻を争うのだ。


 迂回して別ルートを探している暇はない。




「邪魔するな!」




 駆ける脚を微塵も緩めず、矢筒から矢を引き抜くと、アイテムボックスから取り出した聖弓せいきゅう《イルムテッド》につがえ、引き絞る。




「スキル《蒼雷そうらい》を起動!」




 叫ぶと同時に、鏃やじりがバチバチと青白く帯電する。


 雷撃スキルを付与した矢の先端を、クローズ・バットがひしめく天井へ向ける。




「悪いが、眠ってろ!!」




 限界まで引き絞った右手を離すと、矢が青白い輝きを放ちながら飛翔し、クローズ・バットの大群のど真ん中に命中した。


 刹那、青い光が天井を駆け巡る。




「「「「キシャァアアアアアアッ!」」」」




 電撃がクローズ・バットの群れ全体に波及し、あちこちから断末魔の叫び声が上がる。


 電撃を浴びた影響で全身が麻痺し、ボトボトと落下してくるクローズ・バット達に構わず、俺は先を急いだ。




「頼む……間に合ってくれ!」




 額に浮かんだ汗のたまが、たちまち後方へ流れ、散っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る