第11話 身バレ展開は唐突に?
夕方。
時刻は五時を回り、西の空がオレンジ色に色づく。
完全下校時刻までにはまだまだ早いが、元々この学校では「この時間まで部活をしなければいけない」というようなルールはない。
各自テキトーな時間に参加して、テキトーな時間に帰ることが許されている。
瀬良はまだ残って練習をしていくようなので、俺は先に帰ることにした。
俺より先に弓道場に来て、俺より長く練習する。なんと真面目で熱心な子だろうか。
是非とも彼女に欲しくなってしまうが、いかんせん彼女はモテる。
学年の違う俺のクラスですら、狙っている人もいるくらいだ。
それに、風の噂ではどうやら彼女にも気になる人がいるらしい。
結論として、俺のような陰キャが入り込む余地は無さそうだ。
「今日は、ダンジョンに行くのやめとくか……」
俺は、盛大にため息をつく。
その影響で肩にかけた鞄の紐がずり落ち、慌てて持ち直した。
本当なら今日も、小一時間ほど中層でモンスター狩りをしたかったのだが、昨日あんなことがあっての今日だ。
流石に行く気にはなれない。
しばらく、ダンジョン攻略はお預けするのも視野に入れておいた方がいいだろう。
その間、モンスター討伐による報酬ゲットも期待できず、お小遣いを得る手段がなくなるのだけがネックだが、これから先ずっとダンジョンに潜れないわけでもあるまい。
「なーに。人の噂も七十五日って言うし、しばらくすればほとぼりも冷めるだろ」
そう自分に言い聞かせ、俺は校門を出る。
――そのときだった。
後門の、塀になっている死角から誰かが飛び出してきた。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
お互いの悲鳴が交差した瞬間、相手が俺にぶつかってくる。
その衝撃で俺の身体は一瞬宙に浮き、背中から地面に倒れ込んだ。
一瞬景色が白飛びし、意識も危うく飛びかける。
「い……
「ご、ごめんなさい! 急いでたから――」
柔和な声が、上から投げかけられた。
この声は……女だ。
マジか。
俺みたいな陰キャに、角でぶつかるとかいう王道ラブコメ展開が訪れるとは。
――まあ、ぶつかったというより、タックルされたという方が正しいが。
「まったく、気をつけてください……ね」
白飛びした視界が徐々に色を取り戻し、俺を押し倒した人物を認識する。
――その瞬間、時が止まった。
背中から地面にたたき付けられたときよりも強い衝撃が、脳天を襲う。
俺の顔を覗き込む、深紅の大きな瞳。
夕焼けに映える、ふわりと短い金髪。
そして、かがんでいる格好になったことで、強調されまくっている胸!
――そう。
俺を押し倒した張本人は、学園のアイドルこと芹なずなだったのだ。
「んなっ……な、あっ!?」
当然、女性に対する免疫ゼロの俺は、酸素を求める金魚のように口をパクパクさせてしまう。
学園一の美少女に、押し倒されている陰キャの図。
なんてことだ。俺はきっと一生分の運を使い切った。
明日楽人に自慢してやろう――と思ったけど、恨まれそうだから黙っておこう、うん。
とか、そんなこと考えてる場合じゃない!
「あ、あの。退いていただけませんか?」
俺は、気恥ずかしさで上ずった声を上げながら、芹さんにそうお願いする。
――ところが。
「……」
芹さんは無言。
まるで、何かに取り憑かれたかのように俺の目を覗き込んでいる。
「あの! 恥ずかしいんで退いてください!」
「っ! そ、そうでした! ごめんなさい!」
少し声を張り上げたことで、ようやく我に返った芹さんが慌てて飛び退く。
その勢いで、芹さんの持つ豊かな双丘が、たゆんと大きく揺れて――って、見るな俺!
「あの、怪我はないですか?」
「ええ。まあ一応」
俺は起き上がり、身体の状態を確認する。
背中に多少の痛みは残ってるが、それだけだ。
「どうして急いでいたかは知らないですが、気をつけてくださいね。それじゃ――」
俺は、その場を立ち去ろうとする。
気恥ずかしいのもあるが、彼女に正体がバレるわけにはいかないからだ。
ところが、俺の腕は芹さんの小さな手にがしりと捕まれる。
それから、間髪入れずに芹さんは聞いてきた。
「あの! ひょっとして、昨日私を助けてくれた方ですか!」
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