目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~
第9話 俺、全国ロードショーされていたことを知る
第9話 俺、全国ロードショーされていたことを知る
「な、何をするんですか?」
「奪われたあんパンを取り返す」
「取り返すって、まさかそれで!?」
「ああ」
俺は、弓に矢をつがえてゆっくりと引き絞る。(ちなみに、万が一鳥に当たっても大丈夫なよう、傷つけることのない特殊な軟質性の矢を使用している)
ダンジョンでのモンスター狩りが日常化するようになってから、生き物に攻撃を向ける人間が多く散見され、動物愛護法や鳥獣保護法、銃刀法などが大幅に見直された結果生まれた特殊矢だ。
俺は、飛び去っていくカラスの足にぶら下がっているあんパンに狙いを定める。
「無茶ですよ! 先輩の腕はよく存じていますが、あんな遠くの……しかも動く的に当てるなんて」
「そうかな? まあやれるだろ。ノリで」
「ノリで!?」
騒ぎ立てる瀬良の手前、あくまで冷静に答える。
多少実力を見せてしまうことになるが、まあ瀬良なら大丈夫だろう。
このことは内緒にしておいてくれと頼めば、吹聴するようなこともあるまい。
それに、Sランク冒険者であることがバレるわけでもないし。
弦がギリギリと音を立てるくらいまで引き、あんパンに狙いを定める。
引き絞った右手を離し、矢を放とうとしたその瞬間。
一際強い風が吹く。
制服の裾をバサバサと揺らし、野暮ったい前髪が上に上がった。
クリアになった視界の果てに映るあんパンめがけ、俺は矢を放つ。
風を切って飛翔する矢は、空中で小さく弧を描き――狙い過たずあんパンを射貫いた。
突然のことに驚いたカラスが、ギャアギャアと鳴きながら、飛び去っていく。
矢の突き刺さったあんパンが、そのまま弓道場の壁の向こう側に落下していくのが見えた。
「ね? なんとかなったでしょ」
俺は、瀬良の方を振り返る。
「うそ……」
瀬良は、大きな目を更に大きく見開いて呟く。
「そんな驚くことないさ。瀬良も、努力すればこれくらいはできるように――」
「ち、違うんです! そうじゃなくて……あ、そのことも驚いたんですけど、それよりも!」
瀬良はあたふたと慌てふためく。
まるで、トップアイドルにでも遭遇したかのような慌てようで、俺は首を傾げた。
瀬良は、心を落ち着かせるように深呼吸して、俺を見上げた。
「せ、先輩。お聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ?」
「昨日、裏山ダンジョンの下層で、ワイバーンを倒しました?」
「……へ?」
俺は、思わず変な声を上げてしまった。
あまりに突拍子もなく、かつ核心を突きすぎている質問。
射撃技術を見て、ダンジョンに行ったことがあるのか? と質問されるのならまだわかる。
だが、昨日という指定された時間。裏山ダンジョンの下層という具体的な場所。ワイバーンという特定のモンスター。
この三つが揃って質問されたということは、単なる偶然ではない確証を持った疑問、ということになる。
つまりこの子は、俺のことを知っている。
しかし、一体何処で知られたんだ?
「一応聞いておきたいんだけど、どうしてそう思ったの?」
「先輩が矢を射るとき、一瞬風で前髪が上がって……そのときちらっと見えた目の色や顔立ちが、配信に映ってた話題のSランク
「配信? 一体なんの話――」
そこまで言いかけて、ようやく気付く。
とてつもなく、嫌な予感が背筋を駆け上る。
思えば、今日は何やら騒がしかった。
うちの学校のアイドル配信者が、凶悪なモンスターに襲われて死にかけたらしいこと。
彼女を助けたヒーローがいたらしいこと。
そして、今の瀬良の発言。
俺が昨日、ダンジョンの下層でしたことと、状況が重なることに気付く――
「なあ瀬良。その配信、見せて貰えたりしない?」
「いいですよ」
瀬良は、側に置いてあったスマホを手にとって操作する。
「これです」
ずいっと俺の前に画面を突き出す瀬良。
少し顔を引いて、左下を見ると――再生数2,828,904の表記。
「いち、じゅう、ひゃく、せん……はっ!? 280万再生!?」
「はい。でもこれは切り抜きなので、大本の配信動画はもっと伸びてます。たしか、500万再生は越えてたような」
「ご、500万!?」
「まあ、Dan.tubeとツイットーの両方でトレンド1位に上がってましたから、不思議じゃないです」
聞けば聞くほど嫌な予感が増してくる。
お願いだ。どうかこの不安は杞憂であってくれ。
瀬良が、「再生します」と言って画面中央のボタンを押すと、辺り一帯火の海が映し出される。
視点が低い。たぶん、映像を撮っている人物が、倒れているからだろう。
映像の上端に、ちらりと黒い物体が映り込む。
ドラゴンに似た、巨大な生物。
一目でワイバーンだと気付いてしまう。
この光景――すごく見覚えが……
そう思った矢先、火の海を割って一人の人物が飛び込んできた。
銀色の髪。青い眼。
自分で言うのもなんだが男か女かわからない、中性的な顔立ち。
そして――手に持った
もう、誤魔化しようがない。
どっからどう見ても俺だ。俺のドッペルゲンガーであって欲しいと思ったが、
即ち、これを持っているのは必然的に俺しかいない。
【悲報】
陰キャ丸出しの俺、ネット配信で全国ロードショーされてしまった件。
俺は、心の中でさめざめと涙を流した。
――――――――――――――――――――
あとがき
ご一読いただきまして、ありがとうございます
鳥に弓矢を向ける行為は当然現実世界では禁じられていることかと思いますので、あくまでフィクションということでご理解とご了承のほどをよろしくお願いします
引き続き、本作品を楽しんでいただければ幸いです
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