第3話

「なるほど、今持ってる私の合計だと、ライン石が取引の限界か......」


「宝石か......」


「ええ、この中だとかなり高額だわ」


「なら取引できるな」 


「しても無駄ね」


「どういうこと?」


「宝石なんかは、ちゃんとどこで入手したか明確な証明書が必要なのよ」


「盗品対策か...... 闇の商人とかいないのか」 


「まあ、確かに正規以外の商人なら買い取るかもしれないけど...... 騙されるかもしれないし、そんなところと取引してるのがばれたら信用問題ね」


「ヤバイ橋を渡る...... 長期の商売にはむかないな」


「そういうこと、ということは、価値が多少低くても需要があって証明が要らないものに大量に交換するのが妥当ね」


「でもばれなきゃ稼げるってことだろ! やっぱやろう!」


「はぁ、そういうとこでしょ。 あなたがクズなのは」


 ため息をつかれる。


「ちぇっ、なら日用品か食品か」


「ええ、ただこの品質がよくわからないのよね。 これで交換した魚とか食べられる?」


「無理だな。 怖すぎる。 さすがに俺がクズでも、それは売りづらいな」


「でしょ、さっきみたポイズンスネークの牙はかなりきれいだった。 とはいえ、どこからきたのかわからないものを食品と出すのは危険だわ。 何か起きたら責任問題よ」


「だとするなら日用品か。 なにがこの世界じゃ売れるんだ」


「まあ普通は包丁や鍋、鎌やすきくわ、ハサミ、石鹸や裁縫するための布、針、糸、やモンスター相手の武器や防具かな?」


「えっ!? モンスターってなんだ!?」


「モンスターはモンスターよ? かつて魔力で産み出された魔力生物のこと。 まあ今は自然にある魔力が集まって生まれるの。 ああ異世界からきたんだっけ。 コウミのところにはいないの?」


「そんなぶっそうなもんいるか! くそっ! あの人、そんなこと一切いわなかったな...... いや、そういや魔王を倒せとか言ってたっけ」


「魔王...... 確か数百年前に倒されたわ。 今はいないわよ」


「まじで!? なら俺が倒す必要ないな。 まあもっとも倒す気もなかったけど」


「そういう約束できたんじゃないの?」


 不思議そうにアンナがいう。


「いや、その話を伺うとはいったけど、受けるとはいっていない」


「清々しいほどのクズね」


「それほどでも」


「ほめてないわよ。 でも、これじゃもうけるのも難しいわ」


「ああ、それにこの能力使うごとにつかれるな......」


 さっきからなんか息が切れている。


「多分魔力じゃないかしら。 昔魔法使いの知り合いは魔法を使用すると魔力を失ってつかれるって言ってたわ」 


「なるほど、魔力か...... さてどうするか。 楽して稼ぎたいが、疲れるならそう簡単に使えないな。 そうだ、アンナはどうやって物を仕入れてるんだ」


「えーと、まあ問屋から仕入れたり、冒険者から買ったり、自分で見つけたりね」


「冒険者?」


「ええ、お金を払えばなんでも見つけてきてくれるの、まあなんでも屋ね。 モンスターや、素材、アイテムなんかもね」 


「ふむ、なんでも屋か...... 商品を見つけてきてもらうのも楽だしアリだな。 それでもまず売れるものを見つけるのと、ある程度の投資資金は必要だな」


「そうね。 いま私の持ってるものをなにに交換しても、利益は少ない。 問屋に明日行ってみる?」


「だな。 アイテムの価値を知らんとなにが効率的なのかもわからん。 できれば何か欲しいものを聞いて売れればなおいいな」


 その日は宿に泊まり、次の日、アンナと共に問屋街にむかう。


 

「かなり品数があるな。 この中から効率のよいものを探すのは骨がおれそうだ」


 ひしめく店舗の前に商品がところ狭しと並べられ、多くの人が取引をしている。 食品から日用品、宝石、調度品、さまざまなものが売られていた。


「なんだこれ!? 生物か」


 角のはえた俺よりでかいとかげが何体か店先に吊るされている。


「それはユニホーンリザード、それがモンスターよ。 革や角が装備品になったりするの」


「へー、これがモンスターか、であったら確実に死ぬな」


「まあ、普通の剣じゃ、斬るのも無理よ」


「なら魔法か......」


「そうそう、それは魔法で倒すのよ。 ほらスクロール、あれで魔法を覚えられるの」


 そういうアンナの目線をおうと、筒のようなものにいくつもの大きな巻物がさしておいてある。


「なるほど、魔法は買えるのか」


「でも高いし、魔力がないと使えないの。 あっ、ほらっ、ここよ」


 アンナがそういうと、大きな店にはいった。


 日用品、薬、何かの植物、動物の剥製など、さまざまな物がおいてある。 


「いらっしゃい。 アンナ今日はなにを仕入れにきたんだい」


 小太りの店主が親しげに話しかけてきた。


「ええ、プラントンさん。 少し見せてもらいたいと思って」


「ああ、ぜひ見ていってくれ。 でそっちの君は?」


「アンナと共同経営者のコウミです。 プラントンさんここに高額だけど今この店で必要なものってある?」


「高額で必要なものかい? うーん、そうだな。 ファムトルの根かな」


「ファムトルの根......」


「今年は不作でね。 もともと希少なんだが、ほしいという業者が多い。 なんとか手に入れたいんだが...... ここに売り物にならん小さいのがひとつしかない」


 そういってごぼうのような小さな根っこをくれた。 俺はそれをみる。


「確か、ハイポーションの原料ですよね」


 アンナが聞いている。


「ああ、だから冒険者用の店や、国なんかから引き合いがきてるんだが...... 手に入らんで困ってる」


取引トレード、ファムトルの根、魔力値20か......)


「これ見つけたら買い取ってもらえます?」


「あるのかい!?」


 プラントンさんは驚いている。


「あてはなんとか、見つけられると思います」


「なら、一本200ゴールドでどうかな。 普段の倍だ」


 俺はアンナをみた。


「わかりました。 明後日までに用意します。 どのぐらい必要ですか?」


「そうだな。 二十個もあればいつものお得意様に渡せる。 でも明後日なんて大丈夫かい」


「わかりました。 責任もって私たちが用意します!」


 アンナがいうと、プラントンさんは喜んで承諾した。

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