第4話

「やったわね! 契約できたわ!」


 アンナは喜んでいる。


「でも魔力値20の二十個ということは魔力400だ。 なにかアイテムを手に入れないと取引できん。 でも俺はお金ないぞ」


「私のこのペンダントなら1000はするはず......」


 そう首に下げた高価そうな六角形のペンダントのようなものを握る。


「いや、それは大切なもんだろ」 


「一応運命の六角鍵というものだけど...... 今はこのチャンスを逃すべきじゃないわ」


 アンナはそれを換金して、1000コールドを手に入れてきた。


「ポーションが一個10ゴールドで、魔力値が5だから、80個、つまり800ゴールドか。 いけるな」


「ええ、早速ポーションを購入しましょう」


 ポーションを買い込むと、宿へと向かう。



「よし! ポーション80個、取引トレード


 テーブルにポーションを並べると、頭のなかに映像が浮かぶ。


「一応、魔力400でなにが得られるか調べて」


「わかった...... えっと、50で鉄の剣、100で鋼鉄の剣、盾、鉄の鎧、200でゴルークの果実、サーベルラットの牙、400でハイドスネークの鱗、カルム石、バインドの魔法のスクロール、ラーザムの木の板」


「魔法もあるの! それにハイドスネークってあの......」


「まだあるけど」


「メモするからまって!」


 俺がいうものをアンナが興奮気味にメモしている。


「とりあえず、先に約束のものを用意しましょう!」


「ああ、じゃあファムトルの根、二十個取引トレード!」


 そういうと意識がもうろうとして目の前が暗くなった。



「なっ...... あれ? どうした」


 俺はベッドに寝ていて、横に心配そうな顔をしたアンナがいた。


「大丈夫!」


「ああ、でも一体......」


 頭がいたい。


取引トレードを使ったあと昨日倒れたのよ」


「じゃあ!?」


「大丈夫、ファムトルの根はちゃんと交換されてたから、私がプラントンさんのところへ持っていったわ」


「ふぅ、そうか、やっぱりこの能力使うとリスクがあるらしい」


「ええ、間違いないわね。 魔力を失って気絶したんだわ」


「今後は使う量を調整しないとな」


「ほら、これ!」


 アンナはテーブルに置いた袋一杯の銀貨を見せてくれた。


「これで2000ゴールドか!」


「ええ、1200のもうけね! すごいわ!!」


「もう一回したら、まず、売ったあのペンダント買い戻した方がいい」


「ええ......」


 次の日、再度依頼を受け、1000をもうけた。 そのお金でペンダントを買い戻せた。


「じゃあ、そのお金で調べて効率のよい取引トレードの条件を見つけられるな」


「ええ、それなんだけど、ハイドスネークの鱗ってあったじゃない」


「ああ、確か魔力値400の......」


「それは高値で売れるの。 多分10000ゴールドぐらい」


「マジか!」


「貴族が装飾用の鎧や盾に加工する高級品よ。 需要もあるわ」


「なら早速ポーションを大量に買って交換しよう!」


「まって、たくさん買うとポーションの価格があがってしまう。 色んな商品を買って、多少効率が悪くても交換しましょう。 それにその能力の魔力消費も心配だから、ゆっくり交換したほうがいいわ」


「確かに...... いちいち倒れていたら効率も悪いな。 どのぐらい使用できるか調べてみよう」


 その日から一日ずつハイドスネークの鱗を手に入れ、売却を繰り返す。 


 俺たちは二週間ほどで50万ゴールドほど手に入れた。


「すごいよ...... たった二週間で50万なんて」 


 アンナは目の前に置かれた金貨の山をみてそういった。


「ああ、取引トレードは一日魔力値1500ぐらいできるのがわかった。 だいたいハイドスネークの鱗三回分だ。 最初は魔力が少なかったから気絶したんだな」


「それに魔力値の大きいものは、変換でより疲労がたまるのがわかったわね」


「さて、これからどうする?」 


「そうね。 もうハイドスネークの鱗の売買はやめた方がいいと思う」


「ほう、それはなぜ? 稼げるのに」  


「さすがに出所をいぶかしがる人たちがでてきたの。 どこから手に入れてるのかを調べるために尾行までしてきてる」


「確かに俺たちしか扱わないからな。 それに短期間で多くの金を稼げば妬まれもされる。 最悪、金と命を狙われかねん」 


「......ええ、今のところは素材はいいものだから買い取ってもらえてるけど、さすがにいいわけも苦しくなってきたわ」


 そう考えるようにアンナはいった。


「他のものを扱うか......」


「あとはモンスターを狩るかね。 もちろん実際に狩るわけじゃないわ」 


「なるほど...... モンスターがいる場所にいって手に入れたように見せかけるか......」


「ねえ......」


 考えているとアンナに話しかけられる。


「なんだ?」 


「コウミはなんで私と組んでいるの? 正直、稼ぎたいならもっと大商人と組めばいいでしょ。 あなたはもっと打算的な人間だと思ったけど?」


 真剣に聞いてきた。


「俺は打算的なクズだよ」   


「は、はっきりいったわね...... ならどうして?」


「これが最も打算的だろ。 大商人と組めば短期間は確かに稼げるかもしれない。 だけど稼ぐことのみで繋がると、いずれ俺を暴力や脅迫で支配しようするかもしれんだろ。 その点、アンナは金もない俺に手をさしのべた。 リスクのことも気にしてくれる。 どっちが安全かは一目瞭然だ」


「それは確かに......」 


「欲深なやつとの取引はリターンもあるがリスクが大きい。 俺はクズだが、金を稼ぐリターンにはさほど興味はない。 あくまでも自由に生きるためだ。 ならリスクのないアンナと組む方が利点がある」


「なるほど、そういうことなんだ」


 少しあきれながらも、うなづいている。


「まあ、あなたのことなんとなくわかったわ。 コウミと組むのは私にとってメリットだしね。 それでこれからどうする?」


「今のところ安定して食えればいいが、アンナは何かしたいことはないのか? 商人なんだろう金を稼ぐ目的は?」


「そうねぇ、私も生きるために商人になった口だし...... あえていえば国を得るかしら」


「国...... ずいぶん大きくでたな。 国か」


「生きるため以外得られるなら居場所でしょ。 私の国はなくなっちゃったから......」


(なくなった? どういうことだ? いやまあいい、変な詮索は関係がこじれるもとだからな)


「居場所はいい考えだ。 俺も欲しいな。 それでこの世界は土地を買えるのか?」


「ええ、でも人の多い居住地は高いわよ。 モンスターのせいで人がすめない土地の方が多いから」

 

「それはモンスターを排除すれば、すむところを作れるってことか?」


「そうね。 もともとそうやって村、町、国ってなっていったわけだから...... まさか!!」


「ああ、どうせなら何もないところから国をつくろうぜ! モンスターを何とかすればできる方法を見つけてさ! それは面白そうだ!」


 そういう俺をアンナは唖然とした顔でみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る