第十三話 狼煙
指先で
「レイス様、彼女を同席させて宜しいですか?」
「ん? ……う、うむ」
「オリヴィアさん何をしているの? 早くいらっしゃって」
そう言って小さく手招きすると、オリヴィアは弁当箱を持ち、重い足取りで私の隣にちょこんと座った。
反対に座すレイス様の目が泳いでいるのは少し気になるけど、それよりも周囲にやたらと
「そのお弁当、もしかしてオリヴィアさんが作っていらっしゃるの?」
「え? ……あ、はい、まぁそうですけど」
「見せて頂けないかしら? 盛り付けの参考に」
「ええ、構いませんわ」
オリヴィアが
「まぁ、可愛らしい! 美的センスがなければ、こんな鮮やかになりませんわ! まるで宝石箱のようね」
「いや……ち、ちょっと褒めすぎですわ~!」
それを皮切りに、彼女と少しずつ会話を重ねていった。凍っていた氷山を溶かすように――。
「――あはははっ! 面白~い!!」
無邪気な子供のように笑顔を見せるオリヴィア。なんて可愛らしい子なんだろう。
まつ毛が長く、茶褐色の瞳にパッチリとした目に引き込まれそうになる。アヒル口のように緩い口元も可愛らしい。
表現が豊かで抑揚のある口調、身振り手振りが大きく、どんな話題でも飽きを感じさせない。
こちらが話していると、オリヴィアは笑顔で「うん、うん!」と心地よく相槌を打ってくれるので、気持ちがいい。
ていうか楽しい!
すごく楽しい!
あっという間に時間が経っちゃう!
話せば話すほどオリヴィアの魅力に取り憑かれていく。なぜ彼女がこの学園で人気者なのか、やっとわかった気がする――。
ふと――私がオリヴィアの膝の上に乗る弁当箱を見遣ると、一雫の水滴が落ちる。気付くと、彼女は泣いていた。
「……どうしたの?」
「……だって……私……アイシャ様に……ずっと酷いことを……本当に……ごめんなさい」
そっと泣きじゃくるオリヴィアの肩を抱き寄せる。
「そんなこともういいのよ。今はこうして、仲良くなれたじゃない?」
「私……アイシャ様と……とも……だちになりたくて」
「あら? 私だけだったのかしら。貴女と“友達”だと思ってたのは」
俯いていたオリヴィアが顔を上げると、涙と鼻水で顔が乱れまくり。私はハンカチを出してそれを拭った。
「可愛いお顔が台無しね」
「……えへへ」
すると、周囲にいた生徒達が拍手をし始めた。最初は数人だったが、それは徐々に連鎖して広がり、喝采へと変わっていった――。
そんな中、座っていたレイス様の挙動が何やらおかしいことに気付く。
今まで暗殺者も驚くほど気配を消して、完全に空気と化していたのに、急にソワソワとしだしたのだ。
するとレイス様は「あ、そうだ」と、何かを思い出したかのように、手を叩きながら立ち上がった。
「すまん、俺はそろそろ帰らなければならない」
「え、そうなんですか?」
私が見上げて尋ねると「ああ、急でホントにすまない」と言って振り返り、その場を立ち去ろうとした――ところが。
「あの~レイス様、一体どちらに行かれるのですか?」
オリヴィアの問いかけに、彼はビックリしたのか背中を縮こませて止まった。
「いや……その~野暮用が――」
背を向けたままのレイス様に、オリヴィアが再び尋ねる。
「何か私に対して……“大事なこと”をお忘れではございませんか?」
「だ、大事な事……? いや、何だ、頭痛が痛いぞ」
頭痛が痛い?
何かしら、その“危険が危ない”みたいな変な言い間違いは……。
レイス様が額に手を添えて立ちすくむ。オリヴィアは膝の上にあった弁当箱を横に置いてゆっくりと立ち上がり、腕を組んで首を傾げた。
「へぇ~。私にあれだけの“仕打ち”をしといて、まさかシラを切るおつもりですか~?」
オリヴィアの目付きが、獲物を狙う大鷲のように変わる――瞳の奥から光を失ったその鋭さは、中庭にいた全員の背筋が凍りつくほどだった――。
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