第6話 秋雄との対局

「葉山先輩、私との対局をお願いします!」


 突然のことだった。美冬の透き通るかのような美声が、この教室に響いていた。

 話の内容を聴いた私は、驚いて美冬の顔を見つめてしまった。彼女の顔色が少しだけほんのりと赤くなっていた。ま、まさか……!


「わかりました。いいですよ。対局しましょう」

「ありがとうございます!」


 葉山先輩は、やはり丁寧な言葉遣いで美冬からの願いを聞き入れた。優しそうな微笑を浮かべて…………そして、美冬も丁寧ではあるものの、少し語気を強めてお礼を言った。

 もしかしたら、葉山先輩は美冬のことが好きなのかもしれない。私は、少し焦って思わず少し叫んでしまった。


「は、葉山先輩! 美冬との対局が終わったら、その次は私と対局してください!」


 私も大きめの声を出してしまったので、他の部員たちの視線が私に注がれてしまった…………ま、まずい…………私は、背筋に少し冷や汗をかいてしまった。


「さすが葉山さん! 女子たちからモテモテですね!」


 平塚君が、まるで私と美冬をからかうように言ってきた。私が彼を励ましてあげなかったら、これほど調子に乗った発言は無かったと思う。実際、私は葉山先輩のことが大好きなので、平塚君を責める気は無かった。

 しかし、対局のために駒を並べている美冬の視線が、私に対して何回も向けられていた…………私は、その視線が少しだけ気になっていた。

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