第5話 夏織の励まし

 私は、本当に驚いた。葉山先輩が……私が平塚君の玉を詰めるまでの手順を、1つ1つ丁寧に覚えていたのだから……。


「ダメだ……藤沢さんには絶対に勝てないよ…………」


 私との対局で負けてしまった平塚君は、かなり落ち込んでいた。


「大丈夫だよ! 平塚君は、絶対に弱くないから! ほら、元気を出して!」


 葉山先輩の態度が心の底から嬉しかった私は、対局をしてくれた平塚君の背中をポンポンと軽く平手で叩いて、励ましてあげた。普段は強気な私でも、優しい心を持っているということをみんなに知ってもらいたい。


「ああ……僕も、少しでも多く勝てるように、戦法について書かれた本や詰将棋の本などを買って勉強してみるよ……いつも負けてばかりいたら、とても悔しいから!」


 平塚君は、少し弱めの声だったが、それでも目線が下を向かずにしっかりと私の顔を見て言ってくれた。彼の強い意志を感じる。やっぱり、男子の心は強くあってほしい。私は、心の底からそう思う。


 私が大好きになった葉山先輩は、強い心だけでなく優しい心まで持ち続けているから、男子として本当に最高の人だった。

 しかし…………。

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