蒼い月の夜に

蒼い月の夜に

それは、とてつもなく、綺麗な、蒼い月の夜の出来事だった。僕は、その蒼い月のもと、彼とくちづけを交わしていた――……。








彼には、今、三人の子供がいる。……つまり、がいるのだ。しかし、僕と変えの関係は、彼の妻……いや、彼が彼女に出逢う前から始まっていた。人によっては、敬遠されてしまう僕らだけれど、僕と彼は、本気で愛し合っていた。


僕は彼と一生一緒に過ごせるものだと思っていた。彼も同じ想いでいてくれているのも、痛いほど感じていた。


けれど、彼の家は、とても厳格な家で、同性愛者であることを、決して口に出来ない……、と、彼は、僕との愛が深まって逝くほど、鳴く回数を増し、その裏返しか、激しいセックスを求めるようになっていった。


彼の安らげる場所はもう、僕の腕の中にしかなかったのかも知れない。いや、安らいでさえいなかったのかも知れない。唯々、から逃れるのに必死だったんだ。


彼は、僕との関係を周りに気付かれないようにしていたが、僕と付き合いだして四年目の頃、彼の父親から『お見合いをしろ』と言い渡された。幾つになっても、彼女らしき人を連れてこない彼に、父親は、やきもきしていたのだろう。何せ、でかい会社の社長さんだったから……。


彼は、そう告げられた時、思わず喉が熱くなったが、『泣くに泣けなかった』と、であることを辛うじて父親の前で崩さずに済んだ、と、僕の胸の中で、『泣くに泣けなかった』分、泣いた。


彼は、お見合いをした。


それが、今の彼の妻だ。


僕は、お見合いも、結婚も、『嫌だ』『したくない』『愛してないのに』『俺が好きなのはお前だけだ』と家庭を持つことが現実味を帯びてゆく中、彼は、傷を埋めるように、僕のくちびる、体、髪の毛を、舐め回し、泣きながら僕を抱いた。


でも、僕は、正直、どうしていいのか分からずにいた。


このまま、彼の傷を癒す為に、関係を続けるべきなのか、それとも、僕を、もう、、tだ、逃げたくて必死なだけの彼を突き放すべきなのか……。


僕だって、『泣くに泣けない』だけなのに……。


僕は……、僕の方こそ、愛する彼の変貌に、もう傷だらけだった。


そして、答えの出ないまま、彼は、結婚する事になった。そして、子供が三人生まれた。彼曰く、『彼女の性欲が強いから仕方なかった』そうだ。その末っ子が二歳になった日、僕は、彼をある所に呼び出した。


僕と彼が逢うのは、二ヶ月ぶりだった。彼は嬉しそうに、僕のもとに駆け寄ると、笑顔で僕の手を握った。


。匂いがした。ミルクの匂いだ。


僕は思った。


彼は、もう、僕といるべきじゃない、と。


いや、僕がもう彼といるのが苦痛でしかなくなっていたんだ。何故なら、僕は、になったからだ。


彼が愛しているのは、もはや、だった。


だから、僕は、このプラネタリウムのである、の下、彼と、最後の最後のくちづけを交わした。


さよならの、くちづけを。




僕は、悔しかった――……。


初めて出逢った時、とてつもなく綺麗な蒼い月の夜に、交わした口づけと、くちづけをされた事に……。


こんな想いをするくらいなら、もっと早く離れればよかった。


もっと早く……。もっと早く……。もっと早く……。






想い出の街を出て行く夜行バスの中で、僕は本当に、彼を失ったのだ、と涙が流れた。







蒼い月の夜に――……。

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