ぶんぶんとスペース・ガスステーション

ナツノアメ

ぶんぶんとスペース・ガスステーション

とある宇宙の片隅に

ぶんぶんという宇宙人がいました。


ぶーんぶーん。

「ぼくは 宇宙の 端の端まで 誰よりも 早く遠くとぶんだ」

ぶんぶんは 自慢の宇宙船をはしらせ 今日も宇宙を飛び回ります。


ぶーんぶーん。

ぶーんぶーん。


「誰も僕に追いつくことはできないんだぞ」

ぶんぶんは 自慢の宇宙船をはしらせ 今日も宇宙を飛び回ります。


=


ぶーんぶーん。

とある日のこと。いつものようにぶんぶんは宇宙を飛び回っていました。

「ぼくは 宇宙の 端の端まで 誰よりも 早く遠くとぶんだ」


ぶーんぶーん ぼすん!

ぶんぶんの自慢の宇宙船は 大きな音をたてたかと思うと ぴくりとも動かなくなってしまいました。


「おかしいな どうして動かなくなってしまったんだろう」

ぶんぶんが不思議に思っていると そこに うさぎの兄弟が通りかかりました。


「あれ ぶんぶん じゃないか。そんなところで何をしているんだい」

「まいったな 僕の宇宙船が 動かなくなっちゃったんだよ」

「どれどれ ちょっと見てみよう」


うさぎの兄弟は ぶんぶんの宇宙船をぐるっとひとまわり見てみると にやりとした顔でいいました。


「なんだ ただのガス欠じゃないか」

「ガス欠ってなぁに?」

「宇宙船が飛ぶための力が なくなっちゃったってことさ」


「飛べない僕は 僕じゃない」

ぶんぶんが悲しそうにしていると うさぎの兄弟がぶんぶんの宇宙船をひっぱっていきます。


「おーいいったいどこにいくっていうの」

「いいからこっちについておいで」


=


うさぎの兄弟に連れられて ぶんぶんは 小さな星にやってきました。

その小さな星には これまた小さな小屋がたっていて 

そこにはネオンサインで「スペース・ガスステーション」と書いてありました。


「いらっしゃい」

ぶあいそうな店主が のそのそと小屋からでてきました。


「おじさん 宇宙船の燃料 ください」

うさぎがそういうと ぶあいそうな店主が ふんと鼻をならしていいました。


「おまえさんのは 30分」

うさぎの兄弟の宇宙船を指さします。続いて店主は ぶんぶんの宇宙船を指さしました。

「おまえさんのは1ヶ月だな」


「1ヶ月ってどういうこと?」

「燃料をいれるのにかかる時間だよ」

「えぇっ 1ヶ月も?なんで僕のだけ そんなに時間がかかるんだ」

ぶんぶんは 少しだけ怒ったように いいました。

「当然さ だって君の宇宙船は ぼくらのよりうんとおおきいのだからね」


ぶあいそうな店主は 小屋にもどったかと思うと ホースのようなものをもってきて

ぶんぶんの宇宙船にさしています。


ぶんぶんはすこしだけ何かを言いたそうにうろうろとしていましたが

やがてあきらめたようにその場に座って 店主の作業をながめることにしました。


=


「おまえさんのは 3時間」

「おまえさんのは 5日」

「おまえさんのは2分」


次から次へと いろんな宇宙船がやってきます。


ちいさな宇宙船

ひらべったい宇宙船

ぐにゃぐにゃの宇宙船に

ぴかぴかひかる宇宙船まで…


宇宙船の持ち主たちは 燃料をいれおわるまで 思い思いに時間をすごしているようです。


カチカチの宇宙船

トゲトゲの宇宙船

ひえひえの宇宙船

あつあつの宇宙船…


=


気づけばあたりは静かになっていて カチリという音をたてて お店のネオンサインが消えました。うさぎの兄弟も とっくに帰ったようです。

ぶんぶんのお腹が ぐぅ となりました。


「おまえさん 夕飯は」

ひと仕事おえた ぶあいそうな店主が のそのそとやってきました。

ぶんぶんのお腹がまた ぐぅ と音をたてます。


「ついておいで」


店主のあとにつづいて ぶんぶんが小屋にはいると そこには2人のお客さんがいました。

ひとりはひとつ目で もうひとりは利発そうな青年です。


「こんばんは」

ひとつ目が にこにこと人当たりのよさそうな笑みで 声をかけてきました。

ぶんぶんが空いている席につくと 店主がみんなの前に パンプキンスープをおきます。


「これはこれは」

ひとつ目はうれしそうに パンプキンスープに口をつけました。

「店主さん わたしの好物を覚えてくださっていたんですね」


つづいてひとつ目は ぶんぶんに向かって言いました。

「実は明日で 燃料をいれおわりましてね。ようやく長年の夢だった 宇宙旅行にでることができるのです」


ぶあいそうな店主は ふんと鼻をならしてそっぽを向きます。

ぶんぶんは そんな様子をみて たちあがって言いました。


「店主さん 僕の宇宙船ですが もう少しはやく燃料をいれてください。僕は一日たりともこんなところで止まっていたくないんです」


店主は ちらりとぶんぶんを見ると ふんとまた鼻をならしてそっぽを向いてしまいました。


=


次の日のことです。

この日も朝から いろんな宇宙船がやってきては 燃料をいれていきました。


「故郷の家族に会いにいくんだ」

「これからデパートにお買い物にいくの」

「仕事で都会の星までいく予定があってね」


いろんなかたちの宇宙船が いろんな人たちを乗せてやってきます。

ぶんぶんは今日も1日 いろんな人たちをながめてすごしていました。

去っていく宇宙船のなかには ひとつ目のものもありました。


=


その日の晩 ぶんぶんはなんだかさみしい気持ちになって 星空を眺めていました。

頭上を流れ星が通り過ぎます。


「飛べない僕は 僕じゃないんだ」


するとそこに もう一人のお客である 利発そうな青年がやってきました。


「今夜は流れ星がきれいな夜ですね。こんな夜に あなたはどうして泣いているんですか」

青年は ぶんぶんに聞きました。


「僕は これまでずっと 飛び続けていたんです」

「飛ぶことがいきがいだったので 飛べないこの時間が どうしようもなく不安でたまらないんです」


青年は ぶんぶんのとなりに腰をかけると やさしい声で話しはじめました。


「私はもう1年近くここにいるのですが」

ぶんぶんは目を丸くしました。1年も飛べないなんて 信じられません。


「私はうまれてはじめて 流れ星が一日に何回もみれるものなのだと知りました」

それだけじゃありません、と青年は続けます。


「だれかと食べるごはんがおいしいということ 洗いたてのシーツで眠るといい夢が見れるということ あとは この歳になってはじめて 朝までゲームをしたりしました」

「いかんせん これまでずっと働き詰めだったものでして」

青年は少しだけ恥ずかしそうに言いました。


「きっと いまのこの時間は もっともっと とおくまで飛ぶのに必要な時間なんだと 私は思います」


利発そうな青年は やさしい声で おやすみなさい といって自分の宇宙船にかえっていきました。

ぶんぶんはその姿を見送ると 星空を見上げて 流れ星の数をかぞえはじめました。


=


それから いくつもの夜と朝が やってきました。

店主はあいかわらず ぶあいそうで 利発そうな青年は いつの間にか星を去っていました。


この日は ついにぶんぶんの宇宙船の 燃料がいれおわります。

ぶんぶんは ひさしぶりに握る操縦桿の感触に 心をおどらせます。


店主は 最後の点検をすると ちいさくうなずきました。


「飛べなくなったら またおいで」


ぶんぶんの 宇宙船はふわりと 浮かび上がると星空のなかに 吸い込まれていきました。


=


とある宇宙の片隅に

ぶんぶんという宇宙人がいました。


「あっ 流れ星だ」


ぶーんぶーん。

ぶんぶんは 自慢の宇宙船をはしらせ 今日も宇宙を飛び回ります。



おしまい

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ぶんぶんとスペース・ガスステーション ナツノアメ @ame_natsuno

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