好感度エレベーター(Nightmare Elevator)

遠藤みりん

第1話 好感度エレベーター

 ある昼下がり俺は日用品を買い出しに出掛け、自宅であるマンションに帰る為にエレベーターを待っていた。


“開”のボタンを押し暫く待っていると1階のエントランスにエレベーターは到着した。俺はエレベーターに乗り込み自宅である10階のボタンを押すと扉が閉まる瞬間に1人の女性が急いで入ってきた。


「すみません。急いでいるもので」


「気になさらないでください何階ですか?」


「10階をお願いします」


 それを聞き俺は“10”のボタンを押す、同じフロアの住人だろうか?見かけた事が無いな。


「ありがとうございます」


 表示パネルの“2”が点灯する。


「奇遇ですね僕も10階に住んでいるんです」


「そうですか。私は最近引っ越してきたんです」


 初対面の彼女に感じの良い女性だな。と俺は好感を持った。


 表示パネルの“3”が点灯する。


「ご近所さんですね。今後もよろしくお願いします」


「こちらこそご迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」


 屈託の無い笑顔にこちらもにやけてしまいそうになる。俺は必死に堪え平然を装った。


 表示パネルの“4”が点灯する。


それにしても素敵な女性である。年齢は20代の後半辺りだろうか?おそらくOLであろうスーツを着用し長い脚が魅力的だ。


 表示パネルの“5”が点灯する。


「このマンションは良いですね。この家賃でペット可は中々無いですよ」


 俺は慣れない愛想を作り、話題を振り絞る。


 表示パネルの“6”が点灯する。


「ペットを飼ってらっしゃるのですか?私は猫を飼っています」


「奇遇ですね僕も猫を飼っているんですよ」


 表示パネルの“7”が点灯する。


 俺は思わぬ共通点に歓喜し、これはもしかしたら脈有りかもしれないと思いつつ平然を装った。


  表示パネルの“8”が点灯する。


「猫は可愛いですよね。私は独り身なのでいつも癒されているんです」


 表示パネルの“9”が点灯する。


 独り身と聞いて俺は喜びこれは完全に運命だと神に感謝した。エレベーターが上昇すると共に好感度も比例して上がっていく。


 表示パネルの“10”が点灯すると急にエレベーター内の灯りが消える。目的の階に到着したにも関わらず扉が開かずに止まってしまった。


「あれ?おかしいな……どうしよう」


 俺は急なトラブルには弱い。対処方を探しあたふたと取り乱してしまう。


「非常ボタンがあるわ。押してみましょう」


「本当だ。押してみよう」


 スピーカー付きの非常ボタンを押すが何も応答は無い。


「あぁもう急いでいるのに」


 急なトラブルにより彼女は苛立ってる様子だ。無理も無い、エレベーターが止まる事などそうそうある事では無いだろう。


 彼女は非常ボタンを何度も何度も連打する。その姿は狂気じみた様に俺には映った。


「ちょっと貴方なんとかしなさいよ!」


 彼女の怒りが理不尽にこちらに向けられる。そんな事を言われてもどうしようも無いではないか……俺も彼女に苛立ち始めた。


 10分程経った頃だろうか?急に灯りが点いた。しかし扉は開く事なく何故か1階に向けてエレベーターは動き出す。


 表示パネルの“9”が点灯する。


「なんで扉が開かないのよ!」


 彼女は思う様に事が進まず苛ついている様子だ。


 表示パネルの“8”が点灯する。


「それにしても貴方は本当に役に立たないわね!」


「そんな事言っても仕方ないだろ?なんだその言い掛かりは!」


 表示パネルの“7”が点灯する。


「男なのに全然頼りにならない!」


「そんな事、君に言われる筋合いは無い!」


 表示パネルの“6”が点灯する。


さっきまで魅力的な女性だと思っていたがこんな情緒不安定な女だとは思わなかった。俺は酷く幻滅した。


 表示パネルの“5”が点灯する。


「それに私をいやらしい目で見てたでしょ?」


「そんな事は無い!言い掛かりだ!」


 表示パネルの“4”が点灯する。


「後ろからの視線に気付かないとでも思った?」


「誰が君なんかそんな目で見るか!自意識過剰だろ!」


 エレベーターが1階に近づくにつれて彼女との口論も激しくなってくる。


 表示パネルの“3”が点灯する。


「何よ!自意識過剰って、あんたみたいな冴えない男に言われたく無い!」


 彼女の怒りに触れたのか、手持ちのハンドバッグを振り回し、激しく叩いてくる。


 表示パネルの“2”が点灯する。


 遂には脚で蹴られ、俺は思わず彼女を強く突き飛ばした。彼女は壁に頭を打ちつけそのまま動かなくなる。


 表示パネルの“1”が点灯しエレベーターの扉は開かれる。エレベーター待ちをしていたであろう住人と倒れてる女性と俺。


 “エレベーターが下るに比例し彼女への好感度と共に俺の人生は地に落ちた”


 







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