14話
side:和真
「おい、ちんたらしてないで早く運べ!」
毎日のように向けられる怒鳴り声。
「うわ、またアイツだよ」
「ほんと使えないよな。
跡取りだからって威張ってたけど、結局はただの無能だったわけだ」
俺より年下のやつらに顎で使われて、影で笑われて。
「……くっそ……」
それでも俺は、汗水垂らしてただ働くしかない。
かつては薔薇色だったはずの俺の人生。
―――どうしてこんなことになったんだ?
♢
雪と離婚して、慰謝料だなんだってたんまりと金をもっていかれて…… まあ、金については父さんに大分援助してもらったが……かなりの痛手だった。
まあそれでも、俺は社長の息子という地位は簡単には揺るがない。
花梨とはあの後すぐに別れた。
父さんだけじゃなく他のおっさんともヤリまくってた女なんて、汚くてもう抱こうとも思えない。
父さんと同じ女を共有してしまったことにはわだかまりが残るが、時間が解決してくれると思うしかない。
この俺の女になりたいヤツは探せばきっといくらでもいるはずだ。
今度こそもっといい女を見つけて再婚すればいい。
そう思っていたのに―――失踪したはずの兄貴が突然現れたことで、全てが崩れた。
今更帰ってきたって、もう跡取りの座は俺のものだ。
そう思っていたし、父さんや母さんだって散々に兄貴を責め立てた。
その末に、兄貴はみっともなく父さんに頼み込んで会社に戻ってきた。
かつては決して敵わないと思っていた兄貴を、今や俺がこき使う立場なのは気分が良かった。
それなのに……兄貴は俺たちを裏切って、会社の不正をリークしやがった。
そこからはもう地獄だった。
父さんは逮捕されるし、会社からは多額の損害賠償を請求されて家まで売る羽目になった。
俺を含め不正に加担していた親族はみんな解雇されて……そして、会社は兄貴に乗っ取られることになった。
急に帰ってきたかと思えば、最初からこれが狙いだったのかよ。
卑怯な真似をした兄貴に殺意がわいた。
そもそも、長く家を離れていた兄貴が何で不正の情報を持っていた?
まさか雪が関係しているのではないか。そう思えば腑が煮え繰り返るようだった。
そうはいっても、貯金もなくて急に放り出される形になってしまったからまずは再就職が先決だ。
まあ、俺の経歴と能力を買う会社なんていくらでもあるはず……そう思って受けた会社はすべて落ちた。
なんでだよ? 採用担当者はどいつもこいつも無能ばかりなのか?
しょうがなく日雇いの仕事をしたりもしたが、どう見たって俺より底辺の奴らにこき使われるのが癪でやらなくなった。
そうするうちに僅かな持金も尽きて……俺はホームレスにまで落ちぶれた。
ホームレスの生活は辛いことばかりだった。
人生にはこんなどん底があったのだと思い知らされる日々。
何より、この俺をゴミのように見てくる他人の目に耐えられなかった。
もうその頃には、兄貴や雪に対する怒りを持続する気力さえ残っていなかった。
心も体もすり減って、見た目もすっかり浮浪者のそれになった俺。
“下っ端として一からやり直すと誓うなら、会社に戻っても来てもいい”
そんな俺を見かねた兄貴からの提案。
俺は迷うことなく飛びついたのだった。
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