エピローグ
新しい家族のかたち
「旭くんの作った歌、すっごいよかったね!」
ニコニコとご機嫌な様子の彩が言う。
「本当にね。
こんな大きなところからも依頼がくるなんて、やっぱり旭はすごいよ」
続けて私が言えば、少し顔色の悪い旭が「ありがとう」と笑う。
絶叫系の乗り物が苦手なところは相変わらずのようだ。
「もう一回聞きたいから、あとでまた乗ろうよ!」
「も、もう一回かあ……」
無邪気な彩の提案に、旭は複雑そうな顔をして。
そんな姿を見守る優子さんが微笑むのだった。
今日はみんなで有名な遊園地に来ている。
旭の元に遊園地側から園内で使う曲の作曲依頼がやって来て、ご好意の招待チケットを貰ったことがきっかけだった。
せっかくならと旭が誘ってくれて、この度みんなで遊びにやって来たというわけだ。
旭作曲の歌は、一部の乗り物で乗車中に客側が自由に流すことができる仕組みとなっていた。
それで早速その対象であるジェットコースターに乗ってきたのだ。
いくつかの乗り物にのった後は、昼食をとるためにフードコートに入る。
旭がみんなの分をまとめて注文してきてくれることになったから、私と彩と優子さんの3人でテーブルに座って待つ。
―――あれから、もう1年が経ったんだ。
最近誕生日を迎えて、過去に戻る前……高校生の頃の面影にまた一歩近づいた彩の顔を見ながら思う。
いつの間にか、和真と離婚してから約1年の年月が経っていた。
あれからというもの、私はパートから正社員になることができた。
彩と協力し合いながら、慎ましくも楽しい日々を送っている。
優子さんや旭とは、定期的に会って一緒にご飯を食べたり、こうしてお出かけをしたり。
本当にいい関係を築けていると思う。
「ねえねえ、お母さん」
考えに耽っていた私のことを、彩が呼ぶ。
「どうしたの?」そう問い返せば。
「お母さんはさ、いつになったら旭くんと付き合うの?」
思いもよらない質問に、思わず変な声が出た。
「え、ええ……!?
もう、急に何言ってるの……」
「だってお母さん、旭くんのこと好きだよね?」
ケロッとした顔で聞いてくる彩。
確かに、旭と再会して今まで過ごす中で……かつての初恋を懐かしむ以上の感情が芽生えていたことは認める。
だけど、表には出さないようにしていたはずなのに。
さすが、今は幼くても過去には女子高生まで生きてきただけあって、女のカンというやつがしっかり身についていたのだろうか。
「どうかなあ」なんて曖昧にしながら、思わずちらりと優子さんを見る。
「2人がお付き合いして結婚したら、雪ちゃんがまた形式上でも娘になるわね」
目が合った優子さんは、どこか嬉しそうにそんなことを言う。
「そうしたら旭くんは私のパパになるね。
私、旭くんがパパになるの大歓迎だよ!」
「そうしたら彩ちゃんは私の孫になるのね。
それこそ大歓迎だわ」
キャッキャと盛り上がる2人を前にして、私は苦笑いすることしかできなかった。
彩がトイレに行くと席を立って、私と優子さんの2人きりになった。
「……今にして思えば……あなたたちはきっと、一緒に住んでいたあの頃から想い合っていたのね」
優子さんが遠くを見ながら呟くように言う。
「でも……義理でも兄妹であったことや私たちの手前もあって、別々の道を歩んでいた」
あの頃。確かに私は旭のことを好きになるのがいけないことだと思っていた。
旭の態度だって、妹に対するそれでしかなかったと思う。
「……どうだろう。
旭はあくまで私のことを妹としか見てないんじゃないかな」
「ふふ」
私が言えば、優子さんはどこか意味ありげに微笑むのだった。
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