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あれから半年後。
『続いてのニュースです。
架空の売り上げなどを計上する粉飾決算をしたとして、◯◯建設株式会社の高橋重雄社長が逮捕されました。
高橋容疑者は20〇〇年から〇年に渡り継続的に不正を行っていたと見られ……』
テレビでは義父の会社の不正についての報道がされていた。
あれから和也さんは家に戻り、そして義父の会社の不正を然るべき機関に全てリークした。
そのおかげで義父の会社には大々的な調査が入り……長年に及ぶ不正が明らかになったというわけだ。
会社のトップであり悪質な不正の首謀者である義父は逮捕。
臨時の株主総会が開かれ、息子である和真や、不正に加担していた親族は軒並み役員解任・解雇。
株は大暴落、会社の業績は悪化。
義父たちは会社への損害賠償責任を負う羽目になり、家を含めたほぼ全ての資産を手放さなければならなかった。
今は和也さんが、ボロボロになった会社を立て直そうと奮闘しているようだ。
実家である家を手放さなくてはならなかったり、実の父が逮捕されたり……不正を明らかにすることは、和也さんにとっても大きなダメージを負う行為だった。
しかし和也さんは、自分の行動を後悔はしていないという。
夫は逮捕され、自らも住む家を失ったかつての義母。
現在は元義祖母の介護を中心となって担う代わりに、和也さんの住む家に置いてもらっている現状のようだ。
社長夫人として威張り散らしていたのが嘘のように、小さくなって暮らしているらしい。
そして、和真。
和真は付きまとう悪評の影響で、再就職のための面接に落ち続ける日々が続いた。
やっと決まった仕事も「俺に相応しくない」とかですぐに辞めてしまった。
それからホームレスのような生活を送る日々を経た末に、和也さんから差し出された救いの手。
“下っ端として一からやり直すと誓うなら、会社に戻っても来てもいい”
ホームレス生活で辛酸を舐めた和真は、一二もなくそれに飛びついたのだった。
今まで社長の息子ということで不遜に振舞ってきた和真も、今は厳しい環境下でビシバシとしごかれているようだ。
彩への養育費は、和也さんが給料から天引きしてくれているおかげで、今のところ毎月ちゃんと支払われている。
花梨の方からも、期日内に一括での慰謝料が支払われていた。
その後も何か問題を起こして、両親によって地元に連れ戻されたと聞いている。
今回の一件で懲りて、もう不倫なんて真似を繰り返さないことを祈るばかりだ。
「お母さーん、準備できたよー!」
ニュースが次の話題に切り替わったところで、着替えを済ませた彩がやって来る。
「あ、ちょっと待ってね。
お母さんもバッグの準備だけできたらすぐに行けるから」
あれから、私は以前と同じ税理士補助の仕事を見つけることができた。
パートからのスタートだけど、働きぶりによっては正社員雇用も可能だという。
それに伴い、私と彩は優子さんの家を出て2人で暮らし始めた。
新居は優子さんの家にも近い、小さなアパート。
小学校を転校させることになってしまったけれど、この1年弱で優子さんによく懐くようになった彩は、いつでも遊びに行けるから嬉しいと笑ってくれたっけ。
「すき焼きたのしみだね!
旭くんがケーキも買ってきてくれたんだって」
家を出てからも、優子さんと旭との交流は続いていた。
今日もみんなですき焼きをしようと、優子さんの家にお呼ばれしている。
「楽しみだね。
私たちも、着いたらちゃんとお手伝いしようね」
「もちろん!」
私の言葉に、元気に頷く彩。
―――ああ、本当に私たちの望んだ……平穏な生活が手に入ったんだ。
屈託のないその笑顔を見ていたら、急にそれを実感した。
胸がきゅっと締め付けられるようで、堪らずに彩を抱きしめる。
「わっ……おかあさん?」
「彩……大好きだよ」
突然の行動に戸惑う彩へ、溢れるままの気持ちを伝える。
かつてはすれ違っていた私たちの想い。
「私も……大好きだよ!」
もう何者にも引き裂かれることはない。
やり直しという奇跡の末に、再びこの手に抱きしめることができた
私たちは、奪われてきた時間の分までこれからを幸せに生きていくんだ。
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