12話

望んだ未来

あれから予定通り、和真たちから慰謝料と共有財産の折半分、それから使い込まれた遺産分のお金が振り込まれた。

それを確認した後、義父の会社の不正証拠書類の原本を返却する。


そうして後は離婚届の提出のみとなった時、篠田さんを通じて和真から連絡があった。

それは「離婚が正式に成立する前に、一度でいいから彩に会いたい」というもの。


彩に伝えれば「自分の中でもけじめをつけたい」と和真と会うことを望んだ。

場所は弁護士事務所で、双方の希望により和真と彩の2人での話し合いとなったが、そこには安全のため篠田さんが立ち会った。


和真と対面後の彩は「言いたいことは全部言えた」と何だかすっきりした様子で。

「これで心置きなく離婚できるね」そう言って笑ったのだった。


そして―――今日。


「受理いたしました」


私は離婚届を提出した。


役所の窓口の人のその言葉を聞いた途端、体から力が抜ける。

重かった荷物をやっと下ろしたような、長い長いマラソンを走り終えたような。

そんな解放感が血液中を巡るように広がった。


「……お母さん!」


ふらつく足で役所を出れば、聞こえる彩の声。

旭の車の中で待機していた彩が、私の元に駆けてくる。


そのまま彩は勢いよく私に抱きついた。

私はそんな彩を両手を広げて受け止める。


「やっと……やっと終わったんだよね?」


「うん……終わったよ」


私たちはぎゅっと強く抱き締め合う。


「もう、お母さんと離れなくていいんだよね?

ずっと一緒にいられるんだよね?」


「うん、うん……ずっと一緒だよ。

もう離れる必要なんてない」


もう何に怯えることもない。

私たちは、これから2人で生きていく。


「よかった……よかったよぉ……」


「ありがとう、彩……ここまで来れたのも全部、あなたのおかげだよ……!」


過去に戻ってきたあの日のように、私たちは抱き合ったままわんわんと泣いた。


「親子揃ってウサギみたいだな」


車内に乗り込んだ私たちを見て、旭がそんな風に笑った。


私たちはお互いの顔を見る。

泣き続けた瞼は随分と重くて、きっと彩と同じくらい私の目も赤いのだろう。


そんな私たちに、旭の優しい声が届いた。


「……お疲れ様。今までよく頑張った」


こうして、離婚は無事に成立したのだった。

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