2

戻ってきた花梨とその両親に、改めて慰謝料200万を請求すること、また支払いに関しては花梨本人からでないと受付けない……要するに義父に頼ることは出来なくなったと伝えた。


花梨は助けを求めるように義父を見るけど、義父は目を逸らして知らん顔をする。

同じように和真も「……もう無理だわ」そう呟いて目を背けた。


男たちから見捨てられた花梨が、ギロリと私を睨んだ。


「……ふざけんな!

結局、若くて可愛い花梨に嫉妬して意地悪したいだけなんでしょ!」


嘲笑うように花梨は続ける。


「だってどんなに頑張ったっておばさんはおばさんだもんねー!

偉そうにしてたって、アンタが夫に不倫されて捨てられた惨めな女ってことに代わりはないんだから!」


「……そうだね。

確かにあなたから見れば、私は惨めなサレ妻なのかもしれない。でも、私には娘がいる。

何よりも大切なあの子と2人で生きていく……それが私の心からの願いだった。

だから、例え離婚したって―――私は幸せよ」


過去に戻ってきたあの日から、それだけを胸にここまできた。


「あなたはどうなの?

妻子ある男に体を許して、結果的に見放されて、慰謝料まで請求されて。

この不倫で、あなたが得るものはあった?

いいえ、あなたには何も残らなかった。

―――ねえ、これがあなたの幸せ?」


「……うるさいうるさいうるさぁぁい!

黙れよくそババア!

花梨の方がずっと……」


「―――いい加減にしなさい!」


その言葉と同時に、花梨母が娘の頬を強く叩いた。


「え……?」


「この後に及んでまだそんなことを言うの!?

あんたには反省っていう気持ちがないんか!」


叩かれた頬を押さえて呆然とする花梨。


「花梨、おめぇは許されねえことをしたんだ!」


そんな花梨の体を引っ張り、床に膝を折らせる花梨父。

その両隣に花梨両親も並ぶ。


「いった……っ」


花梨の抗議の声にも構わず、花梨父がその頭を上から押さえつける。


「この度は本当に申し訳ありませんでした……!」


今度は3人揃っての土下座となった。


「花梨、今度こそちゃんと謝れ!」


「…………」


頭を押さえつけられたまま、それでも花梨は口を開こうとしない。


「花梨!」


そんな娘を花梨父が怒鳴りつける。

ガンっと、花梨の額が床に打ち付けられる鈍い音がした。


「……っ」


声にならない声をもらす花梨。

花梨父は、花梨が謝るまで手を離す気はないようだ。

それから数秒後。


「……申し訳、ありませんでした……」


ようやく花梨は謝罪の言葉を口にした。


「はい。もう結構ですよ」


私の言葉によろよろと立ち上がる花梨一家。

花梨の額は赤く腫れ上がっていた。


その後花梨の両親は、謝罪の意向は示しつつ慰謝料の減額を要求してきた。

しかしそれは想定内だ。

150万に減額する代わりに、一括で払うことを条件として交渉成立となった。


そして、義父に急かされて、和真は離婚協議書への署名捺印を終えた。

それから……離婚届の記入。


「本当に……雪は離婚でいいのか?」


記入する前に、何を血迷ったのか和真はそんなことを尋ねてきた。


「勿論。今さら、後悔も未練もない……それはあなたもでしょ?」


「……ああ、そうだな……」


そう伝えてから改めて記入を催促すれば、和真はそれ以降無言で記入を終えた。


父の遺産の返還に関しても、用意した示談書に義父が署名捺印した。


屈辱、怒り、悲しみに後悔。

様々な感情を顔に滲ませながら、疲労感に包まれた面々に向けて私は言う。


「因果応報……自分が行った悪事はいつか必ず返ってくるものです。

これを機に、あなたたちが二度と不倫なんてことに手を出さないことを願います」


こうして、長い戦いは幕を閉じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る