10話

全てを白日の下に

義父の口からは、まるで花梨を庇うかのような言葉が発せられた。


「話を聞く限り、この2人は本当に想い合っているようじゃないか。

そんな2人を引き裂くのは忍びない。彼女を新しい嫁としてうちに迎え入れよう。

新たに家族となるのだから……彼女の分の慰謝料もうちが負担する」


「アナタ……!?」

ギョッと目を剥く義母。


「お父さま……!」

目を輝かせながら、笑みを隠しきれない花梨。


なるほど。

その辺りはすでにってことね。


「ただ、たかが不倫ごときで総額500万なんていうのは認められない。

200万。せいぜいこの程度だな」


「請求額を変えるつもりはありません」


義父は明らかに見下した態度で私を見ている。


「妻も言っていたが、浮気は男の甲斐性というものだ。

それくらいで金を無心するとは何とみっともない。

そんなことだから他所に行かれるんだろう」


「浮気は男の甲斐性……ですか。

だからあなたも息子さんと同じことをしていたんですね」


だから。私はその余裕を壊してあげることにした。


「蛙の子は蛙と言いますけど、まさか不倫相手までも同じ人を選ぶなんて思いませんでした」


篠田さんの手によって、スクリーンに映し出されたのはとある写真。


「え……!?」


「何だよ、あれ……!」


私はにっこりと笑いながら教えてあげた。


「見ての通り、お義父さまと花梨さんの不倫現場の写真です」


どこからかひゅっと息を飲む音がした。

写真には、義父と花梨がラブホテルに出入りするところがしっかりと映っている。


「花梨さんは、お義父さまとも関係を持っていたようですね」


これは旭が依頼した探偵の調査の中で、花梨をマークしていた時に偶然にも撮れた写真だった。

何かの役に立てば、と一緒に送ってくれていた。


「う、嘘だよな……?」


スクリーンを呆然と見上げて呟く和真の声は震えていた。


「ア、アナタ……これは一体、どういうことなの……!?」


同じく義母も、震える声で尋ねる。


「こ、こんなもの私は知らん! 

別人だ!」


「でも、この顔にこのスーツ……間違いなく父さんだよな……?

なんで……意味が分かんねえよ……なあ!

そもそも父さんと花梨は知り合いだったのか……!?」


激しく動揺しながら声を荒げる和真。


「……確かに、そこの花梨さんとはちょっとした知り合いで……相談したいことがあるからと言われホテルに行った。

だが、それだけだ。肉体関係はなかった。

なあ、花梨さん?」


「……そ、そうです。

秘密の相談だったから人目のつかないホテルに行っただけ……それだけなの!」


この後に及んで、往生際の悪い義父とそれに乗っかる花梨。

しかしそんな言い訳が通用する訳もない。


「ホテルに行ったのに何もなかったって……さすがにそれは苦しいんじゃないですか?」


思わず言えば、義父が殺意さえこもった目を向けてくる。


「それなら、肉体関係があったと証明できるのか? できないだろう。

嫁としても不出来な能無しの分際で、何をいい気になっている」


そうやって貶して強気に出れば、いつものように私が従うと思ったら大間違いよ。

プライドの高い義父が、簡単に認めようとしないのは想定済みだ。


「できればこのようなことはしたくなかったのですが……証明しろとおっしゃるなら仕方ありませんね」


「おいお前、何を―――」


何かに勘づいた義父が、阻むように声を上げるがもう遅い。


スクリーンでは、新たな映像が流れ始める。

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