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そして悪びれもせずに言い放つ。


「そもそも、不倫されるのはそれだけ妻に魅力がなかったってことでしょ?」


花梨がギロリと私を睨む。


「花梨はこまめに美容室に行ってネイルもして、ダイエットだって頑張ってさぁ、いつでも最高に可愛い自分でいられるように努力してる。

それに比べてこの女は何の努力もしてないただのおばさん!

そんなおばさんより花梨が選ばれるのは当然じゃん」


「……おめぇは何を……」


そんな娘の姿を見て、信じられないと絶句する花梨の両親。


「それに、さっきからお金お金って……がめついよね。

結局かずくんよりもお金が大事なんでしょ?」


その場が静まり返る中、花梨の声だけが響く。


「でも花梨たちは違う。

花梨たちは心から愛し合ってて……真実の愛で結ばれてるの。

……ね、かずくん?」


突然話を振られた和真が、慌てて頷いた。


「あ……ああ!

そうだよ、俺は心から愛してる花梨と再婚する……だから、お前なんてもういらないんだよ。

むしろ離婚は望むところだ!」


ビシッと私に指を突きつける和真。

盛り上がる2人を見ながら、私の心はどこまでも冷えていた。


「あなたたちが真実の愛で結ばれていようがいまいが、やったことはただの不倫で不法行為よ。

その罪はしっかり慰謝料と言う形で償ってもらう」


私が言えば、和真が軽蔑の目を向けてくる。


「花梨の言う通り、結局は金が目当てなんだな」

 

金が目当て?

私たちの悲しみは、悔しさは、怒りは……到底そんなものでは補えない。

それでも、ろくでなしのあなたたちが見せることのできる唯一の誠意はそれお金しかない。


私を睨む花梨と和真。しかしそのくらいでは動じない。

冷めた目で2人を見返していれば、唐突に義母が吠えた。


「さっきから黙って聞いていれば、嫁ごときが随分言ってくれるわね……!」


怒りに顔を歪めながら声を荒らげる義母。


「元はといえば、和真が他の女に走ったのもあなたがちゃんとしていないからよ!」


「……あくまで、不倫された側の私に問題があるとおっしゃるのですか?」


私が問えば、義母はますます声を荒げた。


「そうよ!

そもそも嫁に入ったからには自分の意思なんか捨てて、婚家と夫に尽くすべきなのよ!

それをこんな風に騒ぎ立てて、挙句に慰謝料ですって? 

思い上がるのも大概になさい!」


“嫁は自分たちの奴隷”その考えが根本にあるこの人たちと、一生相容れることはないのだろう。


「それに勝手に彩のことも連れ出して……!

自分でも分かってるでしょ? 

あなたは彩に嫌われているの。

それなのに無理やり言うことを聞かせるなんて……!

早く彩を返さないと、誘拐で訴えてやるわよ!」


「和真にも言いましたが、彩は自分の意思で私についてきてくれました。

決して強要なんてしていません。

それに私たちには、家を出る正当な理由があります」


「正当な理由……?」


怪訝そうな顔をする義母に対して、篠田さんが告げる。


「ここからは私がご説明いたします。

雪さんは日常的に、和真さんとそのご両親から酷い暴言や暴力を受けていました。

それを証明する音声データと病院の診断書もございます」


過去に戻って来てから、私に向けられる暴言や暴力は全て証拠として残した。

こうして勝手に家を出たことを責められようと、この証拠たちが私たちを守ってくれるから。


「それに……あなた方が幼い彩さんに対して、日常的に母親である雪さんを悪く思わせるような言動を繰り返していた音声の方も残っています。

その中には事実に反することも多くあったようですね。

これは心理的虐待に値する可能性があります」


「ぎゃ、虐待ですって……!?

……本当に姑息な女ね……!」


虐待と言われて狼狽える義母。

しかしまた直ぐに私を睨みつけてきた。


「そもそも浮気は男の甲斐性っていうでしょう。

愛人の1人くらい認めて、これまで通りあなたが家事や介護を担えば全て丸く収まるのよ。

責任を放棄して離婚なんて私は認めませんからね」


「母さん、それは……」


それを聞いて、和真が口を挟もうとする。


しかしそれを遮るように、これまで黙っていた義父が口を開いた。


「―――いいや、離婚は認めよう」


視界の端で、花梨がニヤリと口角を上げた。

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