side:和真

くそ……くそ!

一体何がどうなってる!?


あの電話の後、着信拒否にされたのか雪には何度かけ直しても繋がらない。


「なんでだよ……!?」


花梨との不倫が、まさかバレていたなんて。

アイツ、そんな素振り全然見せなかったじゃないか。

今日の朝までは、従順で扱いやすい……いつもの雪だったはずなのに。

俺たちを欺いていたっていうのか?


予想外の事態に頭を抱えているところに、花梨から電話がかかってくる。


『かずくん、大変なの!

さっき、なんか急に内容証明ってやつが送られてきて……』


「花梨のところにもきたのか!?」


くっそ……アイツ、花梨のところにも送りつけていたなんて。


『民法なんとか……って難しいことがいっぱい書いてあるの……。

それに慰謝料を200万払えって……!』


「実は今日、雪が子ども連れてどっかに消えたんだよ。

それで俺のところにもその内容証明が届いて……同じように慰謝料と離婚を要求された」


『どうしよう……花梨、そんな大金払えないよぉ……』


電話の向こうで、ぐすぐすと花梨が泣いている。

俺の大事な人を泣かせるなんて……アイツ、絶対に許さない。


こんな時こそ、俺が花梨を守ってやらないと。


「大丈夫だ花梨。俺がきっとなんとかするから」



花梨にはああ言ったものの、雪には一向に連絡がつかない。

電話が駄目ならとメッセージの連投を続けていると、雪の雇った弁護士から連絡がきた。


「これ以上連絡を続ければ、あなたたちがより一層不利になりかねませんよ」


法の専門家にそんなことを言われたらビビるに決まってる。俺は一旦雪への連絡を諦めた。


調べてみると、不倫が原因で離婚や慰謝料を請求する場合はそれ相応の証拠が必要らしい。


そもそも、雪はなんで俺の不倫に気付いた?

可能性としてはスマホを見られたか?

パスワードはかけていたけど、何らかの方法を使って突破されていたのか。


それで俺と花梨のメッセージのやり取りを見られた……?

こんなことなら、こまめに削除しておくんだった。

でも、メッセージのやり取りくらいでは不倫の証拠としては弱いらしい。


探偵なんかは高い金がかかるし、さすがに雪には雇えないだろう。


”言い逃れはできない“なんて雪は言っていたけど、もしかしてワンチャンあるんじゃないか……?


父さんと母さんも相当怒っているし、俺の味方だ。


「彩を勝手に連れ去るなんて!

誘拐罪で逆に訴えてやるわあの女……!」


「ふん、あんな小娘に何ができる。

躾直しが必要だな」


そもそも、俺は離婚自体は別に構わないんだ。

元々介護が終わればそのつもりだった。

それが少し早まったと思えばいい。

介護だって、最悪祖母には適当な施設に入って貰えばいい。


ただ、アイツごときの言いなりに事が進むのは癪だ。

慰謝料だって払いたくないし、彩の親権だって、特に母さんが手放しがたらないだろう。


でも……もし雪がメッセージのやり取り以上の証拠を持っていて、誤魔化しきれない状況になったら……?


……まあ、所詮はこれまで俺たちに逆らえなかった弱い女だ。

電話越しでは威勢のいいことを言っていたが……話し合いの時、父さんの言う通り躾直して、立場を分からせてやればいい。


それでもまだ騒ぐならしょうがないから手切れ金でも恵んでやって、俺は予定通り花梨と再婚する。


そうだ、決して俺が捨てられるんじゃない。


「むしろ俺が、いらなくなったゴミを捨てるんだ」


まずは待ち受ける雪との話し合いで、上手く立ち回る必要がある。


大丈夫、俺はきっと上手くやれるさ。


「……だって、俺に待っているのは薔薇色の未来のはずなんだから……」

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