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その日、私はいつものように家の中を掃除して回っていた。


義父の書斎に入り、掃除機をかけている際に目に入るのは、壁際にある書棚。

ここにある書類には触れるなと、義父にはキツくと言いつけられている。

並べられたファイルは恐らく義父の会社関連の書類だろう。


昔、もっと幼い彩がこの部屋に入り込んで、イタズラにファイルへ触れようとしているのを見つけた義父は激怒して「母親のお前がちゃんと見ていないから」と私を怒鳴りつけたことがあった。


そこまで怒ったのは仕事の書類だから?

……本当にそれだけなのだろうか。


ふとした好奇心から、私はいくつかのファイルを手に取って中を見る。

中身は決算の書類で、ぺらぺらとめくって確認するうちに覚える違和感。


「……決算書が複数ある……?」


和真と結婚して家庭に入るまでは、私は会計事務所で税理士補助的な仕事をしていた。

だからある程度は会社の決算書などを読むことができる。


「これってもしかして……」


頭に浮かんだ考えを元に、私は数日かけて決算書関連を読み尽くした。


「やっぱりそうだ……!」


そうする内に、義父の会社が不正をしていることが分かった。

売上高の架空計上や、買掛金の仕入れの過少計上など……いわゆる粉飾決算や不正融資のようなことまで。


税務署用・金融機関用・取引先用の3つの決算書を用意するなどの小細工を行いながら、親族経営なのをいいことにグルになって色々と不正を重ねていたようだ。


これもきっと、離婚を有利に進めるための切り札のひとつになる……!

私は証拠となる書類を余すことなく写真に収めていくのだった。



旭から、探偵に依頼していた証拠の写真が集まったとの連絡があった。


確認のため、証拠の写真をスマホのカメラで撮って送ってもらう。

そこには和真と花梨がラブホテルに出入りする様子がバッチリ写っていた。

さすが、本職の人は凄いと感心する。


そして、調査の過程で撮れたものだと送られてきた写真。

そこには信じられないものが写っていた。


「……これって、まさか……」



その日の夜、いつものように義父の出迎えをする。

義父はどうやら機嫌が悪かったようで、玄関に入るなり私の髪を掴んで引きずり倒した。


「……い……っ」


痛みに顔が歪む。そんな私のことを、義父が怒鳴りつける。


「おい! 庭先が砂利で汚れていたぞ!

お前、掃除を怠ってるんじゃないのか!」


庭先はついこの間掃除したばかりで、短期間でそんなに汚れるわけがない。

義父は言いがかりをつけて、私で鬱憤を晴らそうとしているだけだ。


「養われている分際で、家のこともろくにできないのか!

この出来損ないが!」


「……申し訳ありません。

以後気をつけます」


散々怒鳴りつけて満足した後、義父は「次はないからな」と言ってリビングに向かった。


……大丈夫。こんな生活からは、もうおさらば。


どうせこいつらは

仲良く地獄に落ちればいい。



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