第6話
地獄からの脱出
―――どうして、この女がここにいるの?
この女が家に来るのは、和真と一緒に離婚を要求してくるときで……もっと後のはずだ。
呆然とする私に向かって、上目遣いで花梨は言う。
「あの、突然ごめんなさいっ
実はこの辺りに落ちていた免許証を拾ったんです。
住所がこのお家だったので、お届けにきましたぁ」
「免許証……?」
花梨が差し出してくるそれを受け取れば、確かに和真の免許証だった。
「……確かに家の人のものですね。わざわざありがとうございます」
「無事お届けできてよかったです〜。大事なものなので、なくちゃ困りますもんね」
にこにこと笑っている花梨。
一応お礼を言いながら、心の中では疑念がわいていた。
和真がこの辺りで免許証を落として、それを花梨が拾うなんて偶然、ある?
本当は、不倫の逢引き中に落としたか……それか、この女がわざと抜き取ったか。
偶然を装って、不倫相手(当人不在)の家に突撃する理由。
花梨は私のことを上から下まで見回してから、小首を傾げて言った。
「ところで、あなたは……この人のお母さまですか?」
それは―――こうやって妻を値踏みして、笑いものにするためだ。
無邪気を装っているけれど、その下に浮かべる嘲笑が隠しきれていない。
「……いいえ、私はこの人の妻です」
私が答えれば、花梨は大袈裟に驚いてみせた。
「ええ〜!? ごめんなさい!
それにしては随分おば……大人っぽいので勘違いしちゃいましたぁ」
若くてメイクや服装もばっちりな花梨。
対して、ひと回りも年が上で、嫁いびりや介護で疲れ果てている私。
女としての魅力でどちらに軍配が上がるかは明らかだ。
ここで腹を立てても、相手の思うツボ。
それでも不快なものは不快だ。
それに、この顔を見ていると、むざむざと彩を奪われて死んだ……あの時の無念が突き上がってくる。
「ウケる、これなら全然ヨユーじゃん」
花梨が密かに呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
「それじゃ、持ち主さんにもよろしくお願いします〜」
軽やかな足取りで去っていく花梨。その後ろ姿に誓う。
絶対に、あなたにも報いを受けてもらうから。
―――復讐の時は、もうすぐそこよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます