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話していたら、茶碗の中のお茶もすっかりぬるくなっていた。
「……私ね」
優子さんがそう話を切り出したから、私は顔を上げる。
「雪ちゃんとの関係が遠くなっていくにつれて、私たちが家族だった事実まで消えていくようで
少し……寂しかったの。
だから、不謹慎かもしれないけれど……雪ちゃんが辛い時に、こうして助けを求めてくれたことが嬉しい」
本当のお母さんは、私を生んですぐに死んでしまった。
長らくお父さんと2人きりの生活を送っていて、お母さんという存在は未知のものだった。
だから、優子さんが新しいお母さんとして目の前に現れても、関わり方が上手く分からなくて、
家の中が急に居心地悪くなったように感じていた。
そんなある日、私は優子さんに言い放った。
「本当のお母さんでもないくせに干渉してこないで」
学校での人間関係のトラブルに巻き込まれて悩んでいた時期で、鬱憤が溜まっていて。
私の様子を心配してくれた優子さんに、それをぶつけたのだ。
そしてその夜、私は優子さんと父の会話を聞いてしまった。
優子さんは「雪ちゃんのお母さんになれる気がしない」と泣いていて。
私は身勝手にも裏切られたような気分になった。
それからは、優子さんとの関わり方がもっと分からなくなって。
私は高校卒業と共に家を出て、一人暮らしをしながら大学に通った。
そして……私は昔、旭に恋をしていた。
少女漫画から飛び出してきたような外見をしていて、突然できた妹にも優しい旭。
気づけばどんどん惹かれていって……私の初恋だった。
だけど、血の繋がりはなくても私たちの関係は兄妹と決められていて。
この感情は許されないと思った。
旭から離れて、気持ちに蓋をするためにも私は家を出たのだ。
でも、優子さんも旭も……勝手に離れていった私のことを大事に思ってくれている。
それが今日会えたことで、十分に伝わってきた。
「……優子さん、旭。今までごめんね……」
「謝らなくていいよ。こうしてまた会えたんだから」
旭の言葉に、優子さんも「そうよ」と頷いた。
「ねえ雪ちゃん。
雅之さんがいなくても……それでも私は……私たちは、雪ちゃんと関わり合っていきたいの」
「うん……ありがとう」
目に涙が滲む。
私が一方的に作っていた壁の向こうにあったのは、こんなにも暖かい優しさだった。
それを知ることができたのも、この“やり直し”があるからだ。
だからこそ、私は絶対このチャンスを無駄にはしない。
そう改めて心に誓った。
♢
優子さんと旭。
心強い味方ができて、気持ちも前を向いている。
「あと少し……ここが正念場だ」
心の中で呟きながら、私は庭先の掃除のために外に出る。
あれ、誰かいる……?
すると門の外側に、誰かが立っているのを見つけた。
そして鳴るインターホンに、門を開ける。
「……あっ、こんにちわぁ〜」
艶のあるボブヘアー、ファーのついた白のコート。
聞き覚えのある鼻にかかった高い声、見覚えのあるその顔。
私と目が合うと、にっこりと微笑んで。
どうしてあなたがここに……?
―――そこには、
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