2

優子さんの隣に旭が座り、私は2人と向き合う形になった。


「こうして3人が揃うのは久しぶりね」


「そうだね……本当に、久しぶりだ……」


優子さんの言葉に頷く。


父の死後、これまで住んでいた家を売ることになった。

元々家を離れていた旭と私の他に、優子さんもマンションに1人で暮らすことになった。

「いつでも遊びに来てね」優子さんはそう言ってくれたけれど……私がこの家を訪ねることはほぼなかった。


「それで、電話で話していたことだけど……詳しいことを、改めて教えてくれる?」



私は、優子さんに助けを求めて連絡をした。


それは、過去に戻る前……前回の人生では、思いもしなかったことだ。

だって、優子さんに壁を作って、優しさを遠ざけるように、疎遠にし続けたのは私なのだから。

そんな私が、都合のいい時だけ「助けて」と寄りかかるなんてできない。

そんな風に、最初から頼るという選択肢は消えていた。


けれど、私が癌で余命わずかになった時。

「もっと早く気づいてあげられていたら」

「助けてあげられていたら」

優子さんは何度も何度もそう悔やんでいた。


だからやり直しのこの人生では、前回と違う選択……頼るという選択肢をとることを決めた。

もしかしたら、ムシがいいと断られるかもしれない。

それでも……今世なら、手遅れにならないうちにこの人とのわだかまりも解けるのではないか。そんなことを思って。


「そう……まさか、雪ちゃんがそんな目に合っていたなんて……」


「許せないな……そいつら」


私はこれまでどんな目に合ってきたのか、そして、これからどうしたいのかを全て話した。

私と彩は、証拠集めが終わり次第家を出る。しかしその時に持ち出せるお金はあまりに少ない。

家を出た後の生活費や、離婚に向けての弁護士費用だって必要になってくるはずだ。


「久しぶりに顔を合わせたっていうのに、こんなお願いでごめんなさい。

私に……お金を貸してくれませんか」


「雪ちゃん……顔をあげて?」


その言葉に顔をあげれば、優子さんが優しく微笑んでいた。


「雪ちゃんが困っているんだから、いくらでも助けになるわ。

お金はいくらくらいあれば大丈夫?」


「……ありがとう……」


凡その金額を伝えれば、優子さんは快く頷いてくれた。


「……雪、証拠っていうのはあと何があればいい?」


私は旭の質問に答える。


「ええと……あとは、不倫の決定的な証拠……例えば和真と不倫相手がホテルに出入りする写真なんかが手に入ると言うことなしって感じかな……?」


けれどそれは、これまでより格段ハードルの上がる行為だ。

それこそ探偵にでも依頼しないと……「それなら」旭が口を開く。


「俺の知り合いに探偵がいるから、その人に頼んでさくっと証拠をとってきてもらおう」


「……でも、探偵とかって高いよね……?」


探偵を雇えるならそれが1番だけど、何せ今の私にはお金が足りない。

優子さんに借りるにしても、出費はなるべく最小限に抑えたい。


「費用は俺が持つから気にしなくていいよ」


そんなのできないと首を横に振る私に、旭が言う。


「大丈夫だって。

俺が稼ぎに困ってないことは知ってるだろ」


昔から音楽の才があった旭は、今や名の知れた作曲家で数々のヒット曲を世に生み出している。


「……でも……」


だからといって甘えるのは……躊躇う私の名前を、旭が呼ぶ。


「俺は今でも雪のこと、大事な妹だと思ってるよ。

……そんな妹がさ、嫁ぎ先で酷い目に合ってたのに今まで何もできなかったことが悔しいんだ。

だからさ、せめて兄貴として手助けくらいさせてくれ」


「……旭……」


“大事な妹”そう言ってもらえたことが嬉しい。

少しだけ切なさを感じた心には気づかないフリをした。


「ありがとう……2人とも、本当にありがとう……」


私は2人に、心からの感謝を伝えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る