第5話
不倫女、襲来
実は義母は、無類のイケメン好きである。
テレビではイケメンが映るたびに画面に釘付けになる光景が何度も見られたし、義父も昔は中々の美形だったとか和真に聞いたことがある。
義母は日中の多くを家で過ごしていたから、彩と自由に話すことを含めて色々とやりにくい状態だった。
だから彩は、その義母のイケメン好きを上手く活用した。
義母と一緒にテレビを見ながら好きな顔の傾向を探り、好みに合いそうな顔のメンバーがいるボーイズグループの存在を義母に教えた。
グループはまだ駆け出しで、CDを買った際の握手券など様々な会えるイベントを開催していて。
彩が行ってみたいという名目で、義母をそのイベントに駆り出したら、見事にどハマりしたらしい。
そのうち彩が行かなくとも、義母は1人で度々イベントに赴くようになり、そこには同年代の貴婦人のファンもいたらしく。
イベント遠征やファン同士のお茶会だとかで、度々家を空けるようになったのだ。
そのおかげで、日中は気軽に彩と話したり作戦を練ったり、格段に動きやすくなった。
「問題なし……か」
先日、私はがん検診を受けた。
前回の人生での、私の死因は癌。
ろくに検診も受けてこなかったせいで、手遅れと言われほぼなす術がなかった。
過去に戻ってこれた今、無事和真たちと離れられたとしても、将来的にまた彩を1人にしてしまうなら意味がない。
癌は早期発見が大事というし、念のため今の時点でも検査を受けてみたけれど……さすがにまだ何もないみたいだ。
でもこれからは、ちゃんとこまめに検診を受けよう。
彩と、今度こそ2人で生きていくと約束したのだから。
♢
緊張を抱える指でチャイムを鳴らす。
少しの間を置いて、玄関の扉は開かれた。
「―――いらっしゃい、雪ちゃん」
「久しぶり……優子さん」
優子さんに招かれて家の中に入る。
奥の和室に通されて、机を挟んで向かい合うように座った。
「お茶どうぞ」
「あ、ありがとう」
流れる沈黙にどこか気まずさが残る。
「今日は随分冷えるね。来る時も寒かったでしょう」
「そうだね、すごく寒かった……」
気を使って優子さんが話しかけてくれるけれど、上手い返しもできない。
どんな顔をしていいかも分からなくて曖昧に笑う。
そんな時、ガチャリと玄関が開く音がして。
「―――雪」
「……旭」
入ってきたのは旭だった。
「……久しぶり、だね」
やっぱり、どんな顔をしていいのか分からなくて。
私はまたぎこちなく笑ってみせた。
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