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「おかえりなさいませ」


玄関先で、三つ指ついて義父を出迎える。

義父はふんと鼻を鳴らして、鞄を床に放った。


「飯の準備はできているんだろうな?」


「はい。準備してあります」


「当然だ」


義父はそう言ってさっさとリビングに向かう。


……相変わらず、人を人とも思わぬ態度ね。


鞄を拾い上げた手に力が入る。


でもこれも、2人の未来を掴むため。

今はまだ我慢の時だ。


湧き上がった怒りを抑えつけ、私もリビングへと向かった。


過去に戻った今も、和真と離婚することは決定事項だ。

けれど、少しでも有利に離婚するために、和真の不倫の証拠を集めることを彩から提案された。


しかしその分、この家に留まる時間が長くなって彩が辛い思いをするのではないか。


けれど彩は「私は大丈夫。むしろ証拠集めなら任せて、お父さんに痛い目合わせないと気が済まないんだ」

怒りに燃えた目をしながらそう言って。

「それより、お母さんのほうがこの家にいるのは辛いよね」と私の心配までしてくれた。


私たちの未来を掴むため、そのための我慢ならいくらだってできる。

それに、義両親の言動だって録音すれば役に立つかもしれない。

私たちは協力しながら証拠集めをすることを決めたのだった。



ダイニングテーブルでは、家族が揃って食事をしている。

”嫁は残り物を食べるべき“という考えの義両親によって、私はその中に入ることを許されていない。


この時期は、すでに問題の誕生日を終えた後で、過去の彩は私のことを疎み始めていた。

だから怪しまれないように、今の彩も表面上は昔と似たような態度を取り続けることになった。


1人食事もとらず配膳やお代わりの準備で動き回る私を、時折心配そうに彩が見る。

「大丈夫」の意を込めて、周りに気づかれないようにそっと微笑みを返した。


キッチンで後片付けをしていれば、食事を終えた義母が顔を出した。


「ねえちょっと、今日の食事はなんだか脂っぽかったわよ」


私の隣に立って、手伝うわけもなく出すのはそんな嫌味だけ。


「彩りも味もイマイチだったし……これも、ろくなものを食べてこなかった影響かしらね?

やっぱり片親育ちっていうのは駄目よね」


この人は、何かと私が幼少期に父子家庭で育ったことを馬鹿にする。


「……父のことは関係ありません」


思わず言い返せば、義母はキッと私を睨んだ。


「あなたごときが、大層に口答えするつもり!?

とにかく、明日はもっとマシなものを作らないと承知しませんからね!

それと庭の雑草。また生えてきているから早い内に処理しなさいよ。

全く……こういうのは言われる前にやるべきだっていうのに」


言うだけ言って去っていった義母を見送りながら、私はポケットに手を入れる。


……スマホが没収される前の頃に戻って来られて、本当によかった。


取り出したスマホで録音がちゃんとできていたことを確認してから、停止ボタンを押した。


まずは小さな第一歩から。反撃の準備は始まっている。


今はまだ、そうやっていい気になって油断していればいい。


あなたたちは、これから自分たちのやってきた罪の重さを思い知ることになるのだから。

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