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けれどそれからも、義母は何かと私の言動を悪いように変換して吹き込んで、それはまだ幼い心に猜疑心を植え付けていった。


決定打になったのは、彩の誕生日。


お誕生会を開くことを約束していて、私は彩が和真と出かけている間に部屋の飾り付けや料理の準備をしていた。

しかし義祖母を預けたデイサービスから急な呼び出しが入り、私しか出向ける人がいなくて。

急いで帰ってきた時にはもう、家には誰もいなかった。

途中になっていた飾り付けや料理は義母によって全て撤去されていて、義両親・和真・彩と、私を抜いたメンバーで誕生日祝いの食事に行っていた。


義母に散々吹き込まれたのか、彩の中での私は「娘の誕生日も忘れてすっぽかした母親」

それから彩は、父親である和真と義母に懐くようになった。

好きなだけお菓子を食べられて、玩具を買ってもらえて、たくさん甘やかされる生活。


次第に彩も、義両親たちと一緒に私を疎むようになっていった。


辛い日々を耐える中で感覚が麻痺して、すっかり言いなりの下僕に成り下がっていたけれど、このままじゃいけない。


そう思って、私は彩を連れてこの家から逃げようとした。


義父の虫の居所が悪い日には、出迎えの時に暴力を振るわれることもあった。

和真も私のことを小突いたり、モラハラのような言動も多々あった。

私には自由に使えるお金も、頼れる身内もいないけれど……そういう現状を話せば、きっとシェルターに入れるだろう。


僅かな荷物を持ち、義母が出かけた隙を見計らって2人で逃げる……「ママと一緒なんてイヤ!!」

それは彩が激しく拒否したことによって叶わなかった。


そして、彩を通じて逃亡のことが義両親たちにバレてしまい、私はスマホを取り上げられた末に義母の厳しい監視下に置かれた。


何度も彩と話し合おうとして、どんなに言葉を重ねようとも、義母たちが寄ってたかってそれを塗り替えていく。

彩はまるで聞く耳を持たなくなって、私を馬鹿にして軽んじる……言動もあの人たちとそっくりになっていって。


もはやこの家で、私の味方は誰もいなかった。


そして、義祖母が心臓発作で亡くなったことで介護が終わり、49日が過ぎた頃―――その日はやってきた。


「どういう、こと……?」


和真が家に連れてきた1人の女。

当然のようにその女を隣に置いて、和真は悪びれなく「俺の彼女」と言い放った。


要は、和真は不倫をしていたのだ。


私よりひと回りも年下で、いかにも男ウケしそうな愛らしい容姿をした不倫相手。

和真は私と離婚して、この女と再婚するのだと言った。


「本当はもっと早く一緒になりたかったけど、花梨かりんに老人の介護なんてさせるのは可哀想だろ?」


だから、介護が終わったこのタイミングで私を捨てるのだと。


花梨と呼ばれた不倫相手が、私を嘲笑った。


「なんか、こんなことになっちゃってごめんなさい。

でもこれからは、私がかずくんの妻で彩ちゃんのママになるので……さっさと消えて下さいねお・ば・さ・ん♡」


彩だけは、私を選んでくれるよね……?

縋るような思いで彩を見た。


「かりんちゃんは優しくて、それにすごくかわいくって、疲れたおばさんみたいなママなんかよりずっとパパとお似合いなんだよ。

かりんちゃんがさやのママになるなら……」


突きつけられたのは―――絶望。


「ママなんて、もういらない……!」


心が、ポキリと折れる音がした。

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