第1話

全てを失ったサレ妻

私……天野 雪あまの ゆきは、父子家庭で育った子どもだった。

大変なことも多かったけれど、十分に父からの愛情を受けてきた。


けれど23歳の時、そんな父が急死した。

酷く落ち込む私を支えてくれたのが、2歳上の恋人の高橋 和真たかはし かずまだった。

25歳を迎える頃、その和真と結婚して……私は高橋 雪となった。

26歳で娘のさやを授かり、私たちは平凡ながら幸せで安泰な日々を過ごしていた―――はずだった。


状況が変わったのは、和真の兄……私にとっての義兄の失踪がきっかけだった。


和真の実家は地元有数のとある会社を経営している。

そして長男である義兄が後を継ぐと決められていた。


義両親は何かと跡取りである義兄を優遇する人たちで、私たち夫婦には無関心だった。

彩が生まれた時も、返ってきたのは「なんだ女か」という言葉だけ。


「昔から俺は期待されてないから」

そう言う和真はどこか寂しげだった。


だから和真は義実家とは何の関係もない会社で、普通の会社員として働いて、私はそんな和真の強い希望によって専業主婦をしていた。


けれどある日突然、義兄が失踪した。

義両親の選んだ相手との見合い話も進んでいて、誰もが義兄が後を継ぐことを疑っていなかったのに。

「俺は跡継ぎにはなれない」そんな書き置きだけが残されていた。


当然大騒ぎになるも、音信不通となった義兄の消息は分からないまま。

そして、次男である和真に白羽の矢が立った。


社長である義父は新たな跡取りとして和真を指名し、自分の会社に入るように迫った。

悩んだ末に和真はそれを受け入れて、それが始まりだった。

これまでが嘘のように、義両親は私たちの生活に干渉してくるようになって。


そして、同居の話が持ち上がった。


相談という体でいて、決定事項のように話す和真。

私は義両親との同居にいいイメージを持てなかったが、和真は「父さんたちがやっと俺を認めてくれようとしているんだ」


これまで蔑ろにされていた反動のように、義両親の期待に応えるのだと妙に張り切っている様子で。

結局押し切られる形で、義両親との同居がスタートした。


―――それが全ての間違いだとも知らずに。


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