第11話 出迎え
魔性の男は私をじっと見つめ再度言葉を重ねる。
「入ってもよろしいかな?」
「お断りするわ」
きっぱりと拒絶するとイケメン不審者は目に見えて狼狽した。
せっかく夜風に当たろうと思っていたけどしかたない。
私は窓を閉めて留め金をかける。
「な、なぜだ?」
「そりゃ、他人の家のテラスに勝手に立っている人間を招き入れる馬鹿が居るわけないでしょ。あなた、そんな姿しているけど魔族ね」
「この美貌をもってして靡かない女がいるとは……」
古いホラー作品を嗜んでおいて良かったと思う。
たぶんこの男は吸血鬼で、吸血鬼は招かれないと家の中に入ることができないはずだ。
窓の外の男は秀麗な顔を歪める。
「これだけ良い匂いをさせている獲物をむざむざ逃がすわけにはいかん。主義に反するがここは強引にいかせてもらうぞ」
男は強引に窓を引き開けた。
バキンという音がして留め金が弾け飛ぶ。
男は身体を滑り込ませてきた。
ああ、もう。
あっちの世界とはお約束が違うじゃない。
「ふふふ。怖がることはない。私の牙を突き立てれば、生まれてこの方味わったことのない快楽を味わうことが出来るのだ。さあ、私に身を委ねるがいい」
男が余裕の笑みを浮かべて両手を広げた。
こういう感じのちょっと強引なところが素敵と克彦のことを勘違いしていた過去の私の愚かしい記憶が蘇る。
せっかく忘れかけていたのに。
「本当にもう。最悪。さっさと消えなさい。さもないと後悔するわよ」
男の顔に馬鹿にしたような表情が浮かぶ。
「はは。どうすると言うのだね?」
その声に被せるように後ろから声がした。
「お母様。どうしたのですか?」
振り返ると夜着に身を包んだアレクが目を擦っている。
「こんな夜遅い時間にお客様ですか? え? お母様。離れてください」
前に出たアレクがその体で私を庇った。
「はあっ!」
一瞬まばゆい光が溢れたと思うとにやにや笑いを張り付けた男は塩の柱となって崩れる。
それからはちょっとした騒ぎになった。
集落に何か出没している気配はあるが正体を突き止められなかった魔族を勇者が倒したとなればしかたない。
なんとか別の部屋を用意してもらい私にしがみつくアレクと眠りについたのは明け方が近かった。
朝食を終えるとすぐに出立する。
万歳の声に見送られて村を後にしようとした。
村の入口に十数騎が待ち構えている。
全員下馬して片膝をついていた。
羽根飾りのついた兜を脇に抱えた騎士が口上を述べる。
「アイディーン様とアレク様の馬車とお見受けいたします。私はベルーダ大公国の騎士団長フリーデンです。我が国に来駕を賜り、我が主に変わって歓迎いたします。都まで道中の便を図るよう仰せつかっております。むさくるしいところですが、ひとまずは我らが駐屯する城までお出で下さい」
ノーマン様の言う通り早速のアプローチを受けてしまった。
城では下にも置かないもてなしを受ける。
あまり過度な歓待はかえって困ると伝えると、すぐにそれに対応をしてくれた。
居心地は格段に良くなったが、長旅の疲れからか私は熱を出して寝込んでしまう。
アレクは私のそばを離れようとしない。
「お母様。お加減はいかがですか? 蜂蜜入りのパン粥を作ってもらいました。少し召し上がってみませんか?」
アレクがボウルの載ったトレイをそろそろと運んできた。
後ろではハラハラとした表情で小間使いが見守っている。
見舞いにきたフリーデンが感心したように言った。
「まるでお姫様を守る騎士のようだね」
アレクは大まじめな顔をする。
「そうです。私はお母さまの騎士になります」
お追従ではなくフリーデンは大笑し、私はどんな顔をすればいいのか困ってしまった。
***
もうちょっとだけ続きます。
火・木・土の隔日投稿になりまして、次話は11月2日更新です。
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