第5話 追放刑
私を呼び出す段階で既に答えは決まっていたに違いない。
「不貞の疑いをかけられるような女では王妃に相応しくない。アイディーン、そなたを離縁し国外追放とする」
唇の端を歪めながらヤーゲル王は宣言した。
検察官と裁判官が同じで弁護士もつかない審判で勝利を得るのは無理というものである。
悔しいが仕方なかった。
ヤーゲル王に媚びる者から提案されたように私を広場に鎖で繋いでさらし者にするという刑にならなかっただけマシなのかもしれない。
さすがにそんなことをすれば私の実家も黙ってはいないだろう。
私個人への感情はともかく、家と家との面子の問題になる。
それで、追放刑との決定であるが、私自身としても針の筵の上にいるようなエルタニア王国の王宮に住み続けるよりは気が楽だった。
いつ無実の罪を着せらせて、どんな屈辱を与えられるか分かったものじゃない。
追放処分を受け入れるとして気になるのはただ一点だけだった。
「アレクはどうなるのです?」
当然私と一緒のつもりでいる。
ジェーンにも実子がいる以上、なさぬ仲のアレクは邪魔でしかないはずだった。
ヤーゲル王はもったいぶって顎を撫でる。
「さてどうしたものかな。我が子かどうかは疑義があるが、幼い子供を追いやるのも寝覚めが悪い。アレクサンダーは引き続き王宮に留まることを許そう」
私は胸が張り裂けるような気持ちになった。
個人的な私の思いとしてはアレクとは離れがたい。
もとのアイディーンの記憶もさることながら、この数日間接している中でアレクの
可愛さにノックアウトされていた。
正直なところヤーゲル王についてはどうでもいい。
のしを付けてジェーンにくれてやって構わなかった。
国王かもしれないが、今までのアイディーンへの仕打ちにはドン引きだし、今や中身は克彦である。
私のことを一番大切だと言うアレクさえ側にいてくれればそれで十分だった。
しかし、ジェーンに子供ができてから一度も顔を見ようともしないアレクを留め置いてヤーゲル王はどうしようというのだろうか?
克彦が急に父性に目覚めたというのも考えづらい。
何かろくでもない企みでもあるのではなかろうか。
ヤーゲル王が何か思い出したという顔をする。
「そうだ。宮廷魔術師を通じてそなたの実家に連絡したら、不貞の疑いをかけられるとは、恥ずかしいので帰ってくるなとのことだよ。入国も拒否するそうだ。となると行き先に少々困るかもしれないな。そんな旅に幼い子供を同伴するのは無理だろう」
私は平然さを保つのに苦労をした。
ここで悔しそうな素振りを見せたら、相手の思う壺である。
「そうですか。分かりました。それでは下がらせて頂いてよろしいですか?」
「まて。婚姻の証である指輪と王妃であることを示す勲章を置いていけ」
左右に控えていた者が、王の発言に応じるように二つのものを奪い取った。
満足そうに頷くヤーゲル王に背を向ける。
私は顔を上げたまま、並み居る廷臣たちの視線など目に入らぬようなフリをして、赤い絨毯を踏みしめ謁見の間の入口に向かった。
部屋を出ると衛兵を連れた騎士団長が待っている。
「このまま国外へとお連れするようにと命令を受けています」
「息子にせめて一目でも会わせて」
「なりません。直ちにとの王命です」
有無を言わさず差し回された馬車に乗せられてしまう。
「お嬢様!」
エルタニア王国に輿入れするときからずっと仕えてくれていた侍女が切羽詰まった声をあげた。
近づこうとする侍女を衛兵が阻む。
御者が馬に鞭を入れる音が響き、私が乗せられた馬車がガラガラと走りだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます