第122話 正しく性を知る

 男性は女性と違うところに出っ張りがあるわけで、そのくらいは三人娘も重々承知している。哺乳動物の交尾を見たこともあり、子供を授かるための行為なのかなと、幼いながらもふわふわ思っていた。

 以前ゲルハルトがご立派さまであると小耳に挟んだ時、何となく恥ずかしさが込み上げてきたのは、思春期にありがちな揺らめきだろう。だが現実問題として眼前に、結婚の二文字がぶら下がっている。このままじゃいけない少女のままではいられないと、三人は大人の階段を上ろうとしていた。


「これが朝の定期なのね、ケバブ」

「どうしたんだよ樹里、いきなり見せてとか」

「この目で確認したかったのよ、触ってもいいかしら」

「へ? い、いいけど」

「おっきくて……固い」


 早朝に三人娘はそれぞれ、婚約者のテントへ押しかけ目覚めさせた。通常モードと起っきモードの違いを、しっかりきっちりその目に焼き付けたわけだ。けれどこれが私の中に入るのと、不安を抱いたのも事実。白濁液も見たいとお願いしたら、朝っぱらからそれは無理と断られてしまった。ジャンもヤレルもケバブも、ちゃんと理性が働いたようでえらい。


 残念無念の三人娘は、そのあと朝食の支度でかんかかーんかん。調子が少々乱れているわねと、歯を磨く吟遊詩人ユニットはすぐに気付いちゃった。何かあったんだろうけど、悪い事じゃなさそうねと視線を交し合う。奏でる音で心の明暗が読める、音楽家たちはむふっと笑っていた。


「ゲルハルトの芯が膨張した時の太さって……どうしちゃったの? 桂林ったら。明雫に樹里まで」

「いえその、婚約者のあれが中に入ると思うと怖くなっちゃって。そうなるとご立派さまはどのくらいだろう、アリーゼさまは平気なのかなって」


 しばしぽかんとしたあとアリーゼは、腹筋に力を込めぐっと堪えた。相手は無垢な少女三人だ、声を出して笑っては失礼と気遣ったのである。そしてこのくらいよと、飲んでいたエールのジョッキをちょんちょん突く。女性の手ではとても回りきらない直径に、三人娘がひえっと顔をひきつらせた。


「だだだ、大丈夫なのですか?」

「膣は赤ちゃんが生まれる産道でもあるのよ、桂林。このくらいへーきへーき、どんと来いだわ。それとね」

「はい」

「膨張した芯には血液が集まってるから」

「はいはい」

「入って来た時に熱を感じるの、思わず声が出ちゃうわね」

「声……ですか」

「愛し合ってる最中、女性は無我夢中で声を上げるわ、相手が大好きな人なら尚更」

「あの、こすれて痛くはないのでしょうか」

「ふふ、体の準備ができるとね、あなたたちのあそこから蜜が出てくるの。ぬるぬるになるから大丈夫、抱かれてみれば分かるわ」


 パートナーに抱かれる場面を妄想してしまったのか、顔を赤らめ押し黙っちゃう三人娘。こころなしか両足をもじもじさせており、これは濡れちゃったかしらとアリーゼは目を細めた。

 だが中途半端な情報は、少年少女にとってむしろ害悪となる。毒を喰らわば皿までもと、彼女は更に追撃を仕掛けた。どうせ水着だ目の前は海、飛び込んでしまえば濡れた痕跡は消える。


「男性が上手に導いてくれたなら」

「くれたなら? アリーゼさま」

「全身が性感帯になるのよ、明雫」

「性感帯?」

「体のどこを触られても、気持ち良くなっちゃう」

「そう……なんですか」


 男性はぴうしてから、幸福感を得られる滞空時間が短い。対して女性はそれがずっと長く続き、連続で絶頂を迎えられる仕組みになっている。男性は自分がぴうするまでにパートナーを、どれだけいかせられるかが問われるわけだ。

 アリーゼが言うところの、上手に導くとはそういうこと。相手が絶頂を迎えてないのに、自分だけぴうしてはい終わり。そんな男だと夫婦生活は、味気ないものになるわねと彼女は笑う。


「そのぴうが白濁液なんですね、アリーゼさま」

「ぴんぽんよ樹里、赤ちゃんを授かるための種子。中に発射してもらうとね、うわいっぱい出てるって分かるわよ。あの何とも言えない感覚は、ちょっと言葉では表現しにくいかな」


 これは刺激が強かったかしらと、アリーゼは三人娘の下半身に目をやる。両足のもじもじが止まらず、パレオで隠れちゃいるが垂れてきてるのかも。早く海に入りなさいと促し、アリーゼは頬杖をついた。もっと刺激的なことを、ラーニエことシルビィは教えるだろうと苦笑しつつ。


「見事な指導でしたな」

「あらゲオルク先生、聞いてらしたのね」

「救護用テントに一番近いテーブルですからね」


 自らもエールのジョッキを持ち彼は同席してもと尋ね、アリーゼはどうぞどうぞと頷く。水着が常態化してから気になっていたことがあり、ちょうどいい機会だと思ったのだ。


「その胸、刀傷ですよね」

「ええ、前に従軍したとき敵兵に切られましてな」

「兵站の従軍外傷医にですか?」


 軍団の従軍司祭と従軍外傷医は非戦闘員であるため、帝国では手出しを禁ずる不文律がある。だが混戦になればそうも言っておられず、戦争とはそういうものですとゲオルクはエールをちびり。


「しょうがないからどんぱちやってる中、自分で縫いましたよ」

「うっそ……」


 なんて精神力なのと、アリーゼは驚きを隠せないでいる。昔の話しですとゲオルクは笑い、海水に浸かっている三人娘を眺めた。きゃっきゃしてるわけではなく、何やら真面目に話し込んでいる。

 三人ともあそこから蜜が出たの、実は初体験だったのだ。オベロンの加護によって体の機能が、年相応に発達したこともある。更に婚約者を性愛の対象として、意識し始めた事も大きい。


「この世界の成人年齢は十五歳ですが、出産には体がまだ出来上がっていない」

「そうね、だから死産や早産が多いし、産後の肥立ちが悪くて亡くなる母親も後を絶たない」

「ええ、それでも結婚すれば夜の営みは避けられません」

「そこが問題なのよね、体が成熟するまで待ってあげないと」

「遊郭のみなさんは思春期の男子と女子に、正しい性知識を教えてくれる良き先生ですな」


 そう言ってゲオルクは目尻に皺を寄せ、アリーゼが商売柄そうなりますわと口角を上げた。男性を喜ばせるあの手この手を知り尽くした、プロですからとジョッキを手にして呷る。


「出来ちゃいましたではなく、男女の性を楽しみつつ、体の準備が整うのを待つのが理想ですが」

「それは医師としての見地からなのね」

「いいえそうではありませんよ、アリーゼさま。私も十五歳で結婚しましたが、実は妻が不感症だったのです」

「それは……また……」


 お互い発育途上で、男女の性をゆっくり楽しもうとゲオルクは思っていた。ところがどうにも反応が鈍く、まるでまな板の上のマグロだったんだとか。それで彼は一計を案じ、特に敏感な外性器の陰核を、じっくり攻めるところから始めたと言う。


「陰核って、クリトリスのことかしら」

「わはは、そうですそうです、どうも医者の癖が出てしまいまして」


 頭をかくゲオルクに、それでそれでとアリーゼは身を乗り出した。男を喜ばすテクニックは豊富でも、自身のことは割りと分かっていないもの。ゲルハルトから口説かれるまで、彼女にとって男は暗殺対象か、体の上をただ通り過ぎていくだけの存在だったから。


「期間はかかりましたが、クリトリスでいかせることに成功しました。次は膣の中にある、Gスポット探しです」

「それっていったい何ですの?」

「男性には前立腺と呼ばれる臓器がありましてな、Gスポットはそれの女性版です。もっとも性別が決まり女性として生まれた時点から、必要のない部位ですから退化が始まります。つまり持ってる女性と、持っていない女性がいるわけで」


 それで奥様にはあったのですかと問うアリーゼに、ありましたよとゲオルクは頷いた。範囲の広い人もいればピンポイントの人もいて、妻に気持ち良いところを尋ねながら探し当てたと話す。


「ゲルハルト卿とは?」

「安全日を選んで」

「ならお願いして、探してもらったらいかがでしょう。集中的に攻めると妻は悶絶しましたし、そのまま続けてるといっちゃいます」

「やだ、私も濡れてきそう」


 普通は濡れるなんて男性に言ったりはしない、相手がゲオルクだから口にできるのだ。なんせ避妊具を装着する時、すっかりぱっくり見られているのだから。


「子宮の入り口を塞ぐ避妊具を使わなくなってから、感じ方が違いますでしょう」

「言われてみれば……確かに」


 娼婦の誰もがゲオルクにお願いし、ペッサリーと呼ばれる避妊具を装着してもらっている。これもミソなんですよと、彼は人差し指を立てた。実は膣の最も奥にある、子宮口とその周辺がPスポットなんだとか。


「避妊具がないから男性の芯の先っぽが、直接当たりますでしょう。そこが気持ち良いと認識した女性は、Pスポットでいけるようになるんです。私はそうやって不感症の妻を、徐々に開拓していったわけでして」


 絶頂にも深さがあって、Pスポットが一番深いとゲオルクは話す。もちろんがんがん突くのではなく、押して圧をかけたりぐるぐる回したり、女性の反応と表情を見ながらと。


「ねえゲオルク先生、奥様を開拓した話し、ジャンとヤレルとケバブには」

「雑談ついでに聞かせておりますが、何か」


 桂林と明雫に樹里は幸せ者かもと、アリーゼは砂浜に視線を向けた。夕食の仕込みがあるため、海から上がって来ている。彼女は心の中でつぶやく、あなたたちの夫になる人は、絶頂へ上手に導いてくれるでしょうと。


「さて始めましょうか、グレイデル」

「どうなりますでしょう、フローラさま」

「オベロンの加護って、これが本旨だと思うから試さないとね」


 ここは山の中腹、罪人の居住地として整地した場所。

 キョンの頭数調整ができたので、畑があってもいいでしょうと、区画が決められ耕された。フローラはグレイデルと一緒に、手にしたジャガイモを畑に植えていく。


 王国の女王と公爵令嬢が、水着姿で畑仕事を始めちゃった。丸太小屋を組んでいた男衆が、おいおいなんでまたと慌てている。そんな彼らに黙って見守るようにと、隊長たちが指示を飛ばす。


 聖女たちの遅れていた体の成長を、あるべき状態にしたくらいだ。フローラがいま植えたジャガイモを意識し、念を込めたらどうなるか。キリアは兵站隊長として見届ける必要があるし、場合によっては食料の調達事情が大幅に変わってくる。


「植えたジャガイモさん、育ってちょうだい」


 大聖女の念に応えジャガイモが、芽を出しどんどん葉を広げていく。兵士たちの中から、すげえという声が上がった。でもこれは大変とキリアが、男衆に花が咲いたら摘んでと協力を要請。そうしないと花に栄養を取られ、ジャガイモの育ちが悪くなるからだ。


「フローラさま、もうよろしいのでは」

「どうしようグレイデル、止め方が分かんない」

「ええ? それじゃもう育ち放題なわけですか」


 とんでもない量のジャガイモを、男衆は収穫する羽目に。

 ただし他の野菜も上手くいくとは限らない、ジャガイモは土を選ばないからだ。これは色々試すようねとフローラが、止め方を聞いてきて下さいとグレイデルが、山と積まれたジャガイモを見上げるのだった。

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