第121話 性を楽しむ

 精霊さんと絆を結び魔法を使うようになると、聖女は体の成長が鈍化する。オベロンの加護でグレイデルも三人娘も、本来あるべき体付きになったんだろう。フローラは特に意識しておらず、キリアに聞かれても何のことやらさっぱりであった。

 なおリーベルトの筋肉が発達しているのは、単純にアリーゼ先生のしごき……もとい特訓によるもの。服を脱ぎトランクス一枚で活動しているから、余計に目立ってしまうのだ。


「私はあんまり変わってないのよね、どうしてだろうシュバイツ」

「背はちょっぴり伸びた気がするよ、フローラ」

「むう、これが私の年齢に即した体型ってことか」

「不満なのか?」

「グレイデルまでとはいかなくても、ね」


 お風呂テントで二人は、背中を流し合うのが恒例となっている。フローラの背中を洗っていたシュバイツが、両手を前へ伸ばし彼女の乳房を包み込んだ。


「おれは手のひらにちょうど収まる、この大きさが好きなんだけどな」

「本当に?」

「美女と野獣って言葉があるし、全ての女性がイケメンを好むわけじゃないだろ。男だってみんながみんな、大きな胸を好むわけじゃないよ」


 するとフローラは、シュバイツに背中を預けてきた。以前グレイデルの胸に対し、ヴォルフが羨ましいって言ったじゃないのよと。よく覚えてるなとシュバイツは破顔し、彼女の胸を揉みはじめた。


「純粋に触ってみたい気持ちはあったけど」

「ほらね」


 唇を尖らせる愛しい婚約者に「でもお嫁さんならこのサイズ感がいいんだ」と、シュバイツは耳元でささやく。そのセリフに満足したのかフローラは、彼に身を委ねて瞳を閉じた。


「ねえシュバイツ」

「なんだい?」

「もっとして」


 一緒に入浴したら、お互い愛撫し合うのも恒例行事。フローラが熱い吐息を漏らしながら後ろ手で、シュバイツの芯に触れ優しく握る。スペシャルサービスで何度か発射してるのに、全く衰えない絶倫さは相変わらずで。


 そしてこちらは礼拝テント、グレイデルとシルビィが話し込んでいた。こっちもこっちで、下の方の話題っぽい。ただしグレイデルは真剣そのもので、シルビィは親身に相談を聞いてあげている。


「入って来た時の感じね」

「はい、シルビィさま」

「お腹に物が詰まったような感じかしら」

「初めては膜が破れて、痛いのですよね」

「ああ、処女膜に神経はそれほど通ってないのよ」

「そうなのですか?」

「初体験の時に感じる痛みはね、膣を押し広げられて生じるの」


 ヴォルフとうまくやれるかしらと、不安げな顔をするグレイデル。そんな彼女にシルビィは良いこと教えてあげると、行事用テントでもらってきたモスコミュールをくぴり。


「指一本なら大丈夫だから」

「あの、何のお話しでしょう」

「あなたもヴォルフと一緒に、お風呂入ったらどうかしら」

「へ?」


 つまり指一本で膣を広げる準備体操を、ヴォルフにしてもらえって事らしい。そして絶頂を感じるようになったら、初めての合体でも痛くないのだとか。


「指を入れてもらって、中をぐちゃぐちゃかき回してもらうのですか」

「そうそう優しくね、気持ちいいわよ。フローラもシュバイツにしてもらってるから、初夜は痛くないはず」


 もうこの際だから、慣れたら合体しちゃえばと、真顔でシルビィは言う。シュバイツが皇帝にならないと、フローラは婚約も出来ない。しかしグレイデルはヴォルフと婚約しており、婚前交渉しても何ら問題は無いでしょうと。


「でも妊娠しちゃったらキリアが本気で怒るから、そこは気を付けないとね。ウェディングドレスどころの話しじゃなくなっちゃうわ」

「どのように注意すればよろしいのでしょう」

「あら、その気になったのね」


 うひゃあと両頬に手を当て、グレイデルが身をよじる。話しの流れでつい聞いてしまった、自分が恥ずかしくなったのだ。初々しいわねとシルビィは、優しく微笑んで続きを話す。


「あなた生理は順調よね」

「はい、乱れたことはありません」

「それじゃこれを預けておくわ」


 受け取ったガラス管、それは体温計であった。娼婦たちはみんな持っており、生理周期と体温の変化を記録している。それで当たらない日、安全日の目処を付けているのだ。

 ディアスの妻シェリーが妊娠しないのは、行軍中にお腹が膨らむのを避けるため、安全日を選んでえちえちしてるから。もっとも完璧ではないのでヴォルフの協力も必要よと、シルビィは飲み干したモスコミュールのグラスを置いた。


「膣の外で出してもらえば、確率はぐんと下がるわ。そのタイミングを知ってもらうためにも、二人でお風呂に入って欲しいの。そしたらフローラの時みたいに、私が教えてあげるから」


 よろしくお願いしますと頭を下げるグレイデルに、気にしないでとシルビィはにっこにこ。あの三人娘もそろそろ頃合いかしらと、彼女は次の教え子を頭に思い浮かべる。ジャンもヤレルもケバブも、移動遊郭に足を運んだことは一度もない。あの若さなら溜まっているはず、抜いてあげなきゃ可哀想だわと。


 それから数日後、保存食の仕込みも終わり、ここは清水が湧き出る山の中腹。

 グレイデルと三人娘がそーれと、ジャイアントスイング風の大車輪で木々を切り倒していく。整地するには切り株が邪魔になるため、フローラが初めての技を披露した。


アーススピア大地の槍!」


 鹿狩りの最中に珍しく、古代竜のミドガルズオルムが目覚めてお久しぶり。フローラの成長度合いを見て教えてくれたスペルは、古代の地属性魔法であった。

 地面が隆起して鋭い円錐が剣山のように、ずらりと立ち並んだ。もちろん攻撃魔法で、土が硬くなるのはその瞬間だけ。切り株が根っこごと持ち上げられ、今度は火属性魔法のフレイムアナコンダ炎に輝く蛇で燃やしていく。

 倍化で炎の蛇が二体、乗算の二かける二で四体も出ちゃった。調整が難しいと、足踏みしちゃう大聖女さま。王笏おうしゃくを媒体に使っているせいか、蛇のサイズも通常のふた回りほど大きい。


「でも一発で燃やし尽くしましたね、フローラさま」

「うう、喜んでいいのやら悲しんでいいのやら、複雑な気分だわグレイデル」


 こけっこ六頭がのっしのっしと、地面をならし踏み固めて行く。それを眺めながら二人はキリアにもらった、おやつのホットドッグを頬張っていた。切った木材は丸太小屋にするため、男衆がえっさほいさと整形しカットしている。

 大雑把に切ってよい部分は、斬岩剣が大活躍なんだこれがまた。シュバイツとヴォルフがとりゃあと、すぱすぱ切るもんだから髙輝と晋鄙も思わず参加していた。


「フローラさま、ちょっとお聞きしても」

「ヴォルフとのお風呂はどうだったのかしら」


 その件だなと読んだフローラに先回りされ、陸に揚げられた魚のように口をぱくぱくさせるグレイデル。意地悪ですねと眉を八の字にして、ホットドッグをはむはむ。


「ごめんごめん悪気はないのよ、それで聞きたいことって?」

「絶頂を迎える瞬間って、どんな感じなのか知りたくて」

「私の場合は高い所から落ちていく感じかな、だからシュバイツにしがみ付いちゃうの。人によっては宙に舞い上がる感じもあるって、シルビィが言ってたわ。個人差があるみたいだけど、あそこがひくひくして幸せな気分になるわよ」


 初めてのペッティングで、絶頂を迎えることなど滅多にない。ヴォルフとの愛撫はどうだったのと、フローラは指に付いた唐辛子入りケチャップをぺろりと舐めた。もちろんからかいではなく、友人に対する親愛の情として。


「自分で触るのと、好きな人に触られるのとは、全く異次元の感触でした」

「うんうん、それ分かる」

「すっかり濡れてしまって」

「うんうん、それでヴォルフをいかせてあげられた?」

「ええ五回、男性がいく瞬間って、芯があんなに脈動するのですね」


 それは良かったわと、フローラは食べ終わった紙包みを畳む。くしゃくしゃと丸めないところに、彼女の性格がよく表れている。

 その視線が切った大木に並んで座り、同じくおやつを頬張る三人娘に向けられた。婚約相手を妙に意識しているような、そんな気がしてならないのだ。これは移動遊郭の経営者、あの子達にも手ほどきを始めたなと、フローラは目を細めくすりと笑う。


「アンナから聞いた話しなんだけどね、グレイデル」

「どのようなお話しで」

「昔アウグスタ城のキッチン・メイドに、シエラってメイドがいたんだって。その子は女子に生理があることを、母親から教えられてなかったそうよ」

「まあ、それで?」

「自分は病気か悪いものに取り憑かれたのかしらと、本気で悩んだみたい。そりゃそうよね、朝起きたらシーツが真っ赤っかなんだもの。誰にも相談できなくて、途方に暮れたんだって」

「結局そのシエラは、どうなったのでしょう」

「大人になっても、母親をずっと恨んだそうよ。こんな大事なこと、どうして教えてくれなかったのって」


 母がいない私に生理を教えてくれたのは、メイド長のアンナとハウスキーパーのクララよと、フローラは当時を懐かしむ。その時になって慌てずに済んだのは、二人のおかげだわと。孤児院育ちのスワンとカレンは、修道女が教えたからでしょうと。


「そして今はシルビィが、男女の性の楽しみ方を教えてくれてる。奇特な存在だと思わない? グレイデル」

「確かに知識と実践が伴っていれば、夫婦仲はもっと良くなるかも」

「男子は父親が、女子は母親が、夢精と生理をちゃんと教えなきゃね」


 それがトラウマになって男女の性を楽しむことに、気付かず結婚に対し臆病になってしまったならばどうなるか。人口減少に歯止めがかからず国が滅びちゃうと、フローラは王笏を撫でる。性に対する教育は親の責任、安心して子育てが出来る環境作りは王たる者の責任よねと。


「男性って腹だけでなく竿も立つとは知らなかったわ、樹里」

「朝が定期みたいだけど、見てみたいよね、明雫」


 三人娘は母親から教わっていたので、生理が来ても慌てることはなかった。ただ奴隷としてブラム城に連れて行かれたため、性の知識はほとんど無かったりする。夫と何かいいことすれば、赤ちゃんに恵まれるって程度の認識なのだ。


 明日の早朝テントに押しかけようかしらと、桂林が大胆な発言を。シルビィ先生が教えてくれた、白濁液も見てみたいと。明雫も樹里もそれいいねと、乗っちゃうあたりは好奇心が旺盛なようで。

 この三人も婚約してるから、婚前交渉は問題ないっちゃ問題ない。ただし明雫と樹里はまだ成人しておらず、この二人は限りなく白のグレーゾーン。まあヤレルもケバブも紳士だから、成人するまで無茶はしないだろうが。


「ところで桂林」

「なあに? 樹里」

「結婚式を挙げない理由、未だに聞いてないのだけど」

「樹里の言う通りだわ、夜はジャンさまと同じテントで、一緒に過ごせるのに」

「私はね、明雫、樹里、あなた達と一緒に結婚式を挙げたいの。父上と母上には、ちゃんと話して了解をもらっているわ」


 父である宋本家の英夏は、最初しぶったようだ。けれど準備に時間的な余裕が出来ますでしょうと、母親がとりなしたんだとか。そこは女親で性のあれこれを全く教えておらず、まずいかもと心配になったようで。


 そんな親心を桂林は知らないが、結婚する時は奴隷時代から苦楽を共にした、二人と一緒がいいと決めていた。厚い友情に感激した明雫と樹里が、桂林を両脇から挟んでぎゅううう。休憩に入ったジャンとヤレルにケバブが、何やってるんだろうと首を捻ってるけど。


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 このエピソード、もしかしたら運営さまより教育的指導が入るかも。書いててちょっと不安になった、汐朗でございます。

 ただ私としては子供の性教育って、学校の先生に頼るんじゃなく、親がすべきって主義です。絶頂を一度も経験することなく、妊娠出産に至る女性は人生損してると思うから。指導が入ったら別のエピソードに置き換えますので、そこはご了承下さい。

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