第16話 冷蔵庫

 過ごしやすい師走が続いています。


 あまり寒すぎると動けないので、このくらいの日和でしたら掃除をするのにちょうどいいと思いましたので、大掃除もどきに続いて魔窟の掃除に取り掛かりました。


 家に魔窟があるなんて、とまるで小説のような展開を想像されたりするかもしれませんが、我が家には異世界に通じるドアも穴もありません。


 ですが、それはどこのご家庭にもあります。


 冷蔵庫です。



 用意したのは、手袋、マスク、セスキ炭酸水のキッチンシート、布巾です。


 まずは上段から、乗せているものを取り出して仕切り板を外します。

 キッチンシートで周りを拭いてから仕切り板を洗い、出したものを戻します。


 中段、下段と同じような手順で掃除をするのですが、下に行くにつれて汚れがありました。


 手に届きやすい所につい入れがちなので、やはり頻度が高ければ汚れやすいのだと。


 そして、下段に行くほど遺物が発掘されました。


 賞味期限切れの鮭フレークやシチューのルーなどの他、ファストフード店でもらってきたミルクポーションやお手拭き、コンビニのサラダに付いていたドレッシング、カップ焼きそばの付属品のマヨネーズなど、枚挙のいとまがありません。


 見つかる度に「おいおい」や「何じゃこりゃ」と思わず口から飛び出しました。


 名優・松田○作さんを憑依させてぼやいていないと、さくさく処理することはできそうにありませんでした。


 野菜室は玉ねぎの茶色い皮や砂(?)が転がっていましたが、ミイラやジューシーな物を見つけることはなかったので安堵しました。


 冷凍庫も、日頃通販で買っているせいか遺物は発見されませんでした。


 上から下へとすべて拭き終わり、ほっとしたのも束の間、ドアポケットがあるのを思い出して溜息をつきました。


 ここは細々こまごまとしたものがある場所なので面倒くさいんですよね。


 また、遺物発見のホットスポットでもありました。


 チューブのマスタード、味噌田楽のパウチ、お寿司の素など、たまに使う物の巣窟だからです。


 辛うじて前時代の物はありませんでしたが、ミレニアムのタバスコを見つけた時には、松田○作さんにもなれず「おおう」と素の自分の呟きが出ました。



 どうにかこうにかミッションコンプリートして冷蔵庫のドアを閉めると、そこは魔窟ではなく人の手が入った冷蔵庫になりました。


 手強かったのですが、終わればさっぱりするし達成感もあります。


 冷蔵庫を魔窟にしているのは利用している人間です。


 買ったまま、使ったままにして放ったらかしにしているから、いつの間にか魔窟になっているのだと思います。


 几帳面な方の家にはないと思いますが、面倒くさがりの私の家には冷蔵庫だけではなく他にも不可侵アンタッチャブルな場所があります。


 冒険はまだまだ続きます。

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