第12話 バジル

 寒い季節になりました。


 街路樹の紅葉も進み、自転車に乗ると襟や袖から入る風に身を震わせます。


 冬用の手袋を出しました。手首にフェイクファーの付いているものです。


 可愛いからというのもありますが、袖からの風の侵入を防いでくれる機能性もあります。


 オシャレなだけじゃない。

 そういうの好きです。



 スパイスが安いとスーパーの放送で流れていたので、乾燥バジル(小瓶)を買いました。


 鶏ひき肉とトマト缶も買い、鶏団子トマトスープを作ろうと思い立ちました。


 用意するものは、トマト缶、鶏ひき肉、高野豆腐、じゃがいも、人参、玉ねぎ、バジル、コンソメ顆粒、片栗粉です。


 じゃがいも、人参、玉ねぎは5㎜くらいのさいの目切りにします。


 高野豆腐を水に入れてレンチンで戻し、水気を切ったらフープロ等で細かくします。これは鶏団子のつなぎにします。


 食品用のビニール袋に高野豆腐、バジル、片栗粉、コンソメ顆粒を入れてふりふりして混ぜます。

 満遍なく混ざったら鶏ひき肉を入れてビニール袋をもみもみして混ぜます。


 鍋にオリーブオイルを熱して、野菜を軽く炒めてから水を入れて温まってきたらビニール袋の端を切って肉だねを押し出し、適当な長さのところでスパチュラで鍋に落とします。


 灰汁を取り、トマトを入れて鍋の中で潰します。


 コンソメ少々を入れた後に、急にビーフシチューのルーがあったのを思い出し、それも入れることにしました。


 なんで思い立っちゃったんだろうな、とすぐに後悔しました。


 ルーの溶けた鍋の中はどろどろで、トマトの鮮やかな赤い色は無くなりました。


 ちょっと味が濃くなったので、豆乳を混ぜて調整したらまろやかになったので安心したのですが、見た目は更に混沌としてしまいました。


 ですが、食べてみるとトマトの酸味やルーのコク、際立つ強い味を緩和する豆乳がいい仕事をしてくれてなかなか味わい深い。


 どろどろの中で、バジルの効いた鶏団子が爽やかさを加えてくれました。


 しかし、これはスープではないな、と思いました。


 次の日、シュレッドチーズを載せてレンチンして平皿にご飯をよそってかけました。


 トマトハヤシライスもどき、です。


 一口食べて、ちょっと濃いめの味付けがご飯とよく合い、トマトとチーズがいいアクセントになり、バジル鶏団子が爽やかさを添えます。


 当初の思惑は外れましたが、違うものに発展できて結果オーライです。


 無理矢理そういう着地点を見つけたと言われても反論はできませんが。


 食べ終わってから、「塞翁が馬」という諺が脳裏に浮かびました。

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